中国・習近平体制の検証-内政・外交・日中関係-
防衛大学校長
國分 良成 氏

皆さんこんにちは。防衛大学校長の國分と申します。本日は講演会にお招きをいただき光栄に思っております。防衛大学校は週末の日曜日に開校記念祭があり、「棒倒し」で最後を締めくくりました。先ほど、会場の入口で防衛大学校写真集が紹介されていましたが、どうぞ「一家に一冊」お持ちいただいて(笑)、日本にもこのような若者がいるということを見ていただければと思います。
今日の話は「中国の習近平体制」をどのように理解するかということです。私は「外交は内政の延長である」と考えていますので、どうしても内政の話が多くなると思います。国際関係というのは、それはそれで大事なのですが、ある意味表面的ともいえ、基本のところには内政があると思っています。日本は今、長期政権で安定していますが、アメリカを含めて多くの国が内政に問題を抱えている状況で、外交が内政の影響を受けることが非常に多くなっています。中国では国内のできごとはほとんど取りあげられず、外交ばかりがニュースになっています。内部のことは全く公表していないのです。本当は内部こそが重要で、そこをきちんと見ておかないと「なぜ、こういう外交政策になるのか」或いは「なぜ、日本にこのよう対応をするのか」というのが見えてこないのです。私は「日中関係は基本的に中国国内政治の延長である」という認識を持っています。

 

一 未だ固まっていない習近平体制~なぜ、国家主席任期制をなくしたのか~

習近平体制がいつから始まったのかを見る前に、まず「体制」と呼べるかどうかです。体制というのはある程度固まってこないと体制とは言えないわけですが、今日の結論のひとつは「習近平体制はまだ十分に固まっていない」ということです。習近平自身の権力も含めて特に大きな問題があるというのではありませんが、今中国は別の勢力も健在で、「権力闘争の繰り返し過程にある」ということではないかと私は思っています。

中国は五年に一度党大会が開かれ、中央委員といわれる200人ぐらいの指導部の改選を行います。習近平体制は2012年、第18回党大会で発足し、昨年17年10月に第19回党大会が行われて一期目が終わったところです。中国は日本とは全く政治体制が異なります。中国を見ていくとき、まず「共産党と憲法とどちらが上か」という問題が重要になり、中国でも長年議論してきたわけですが、ここ10年ぐらいは議論が止まっています。この議論は、言い換えれば「党と国家とどちらが上か」ということでもありますが、表向き、両者はほぼ対等のような位置づけになっています。しかし、実際の運用面においては党の方が上だと思われます。中国は一党独裁で、指導部の考えで政策が進められます。国家については「全国人民代表大会」という国会で基本的事項を憲法に基づいて決議します。しかしながら党大会の後に全人代が開かれますので、実質的には党の人事と政策が優先するということになります。

中国の最高指導者は、共産党総書記、国家主席、中央軍事委員会の主席を独占することになっています。党の総書記が必ず国家主席になるというのが、ここ30年以上慣例になっています。党総書記の任期についての規定はありませんが。国家主席の任期に応じて党総書記を務めるという形になっています。総書記には国内の全ての権限が集中しています。しかし、海外に行くとき或いは海外の要人と会うときは国の代表として国家主席の肩書きで対応します。

今年3月に開かれた全人代で国家主席の3選禁止の憲法上の規定を削除しました。これまで任期については、鄧小平が毛沢東時代を反省し「終身制はいけない」として、毛沢東は「死ぬまで皇帝の地位にとどまる中国王朝の伝統」を目指したわけですが、鄧小平はこれを否定し任期制を設け、一期五年で2期までとしました。しかし、今回の憲法改正により、習近平は従来であれば4年後に2期目が終わりますが、新しい規定により彼は国家主席を、そして党総書記も辞めなくて済むようになりました。これにより、毛沢東のように彼は独裁者になったという議論が出てくるわけです。
ここで、なぜ習近平がこのような措置を取ったかということを考えてみたいと思います。結論からいえば、習近平はまだ権力を取り切れていないということです。一期目が終わり6年目に入ったわけですが、彼が何かもの凄い業績をあげたでしょうか。鄧小平のように改革開放の路線を推進し都市を開放したということはありません。何もできていないというか、そもそも何かできるような状態ではないということなのです。したがって「何かをやろう」ではなく「権力を固める」ということばかり言っているわけですが、いろいろな形で邪魔が入ってくるので、その権力も十分に固めることができていないわけです。

 

二 習近平が権力を手にするまで~権力の掌握をめぐる指導者たち~

中国共産党にとって独裁体制を支える権力の基盤は「人事と軍事」ですが、それに付け加えてもう一つ、警察などの「公安機関」があります。この機関は幹部の情報を握っているので特に重要です。中国での情報というのはご承知のように顔認証、メールなどのあらゆるデータを全部チェックしているわけです。そうするとこの公安権力の取り合いが一番激しくなることはお分かりになると思います。ここを握るのに習近平も相当時間がかかりました。中国のトップに就任してから3年ぐらいかかりましたが、まだ十分には取り切れていないと思います。中国の指導者は日本と違って誰も選挙などでは選ばれず、激しい派閥闘争、権力闘争を勝ち抜いてきているわけです。この違いは非常に大きいと思います。たとえば中国に行って誰々と話して来たといっても、その人が誰につながっているのか、後ろに誰がいるのか、習近平が本当にそう言っているのかなどが重要になるわけで、そのあたりを丁寧に見ていくと、もっと違う図が見えてくるということになります。

習近平は組織の上層部にいる多くの人を辞めさせました。首を切ったわけです。中国の総参謀長も数ヶ月前に自殺しています。ほとんどニュースにもなっていませんが、上層部の多くの人たちは首を切られたか或いは追い込まれてしまいました。そのほとんどが汚職、腐敗問題だと思います。ご承知のように中国共産党の上層部で腐敗していない人はほとんどおらず、結局みんなどこかに傷を持っていますので、それに触れられるか触れられないかは権力との関係次第ということになってくるわけです。
習近平が公安組織を握ったのが2014年です。皆さん薄煕来を覚えているでしょうか。2012年前後に「薄夫人がイギリス人の殺害に関与したとか」という事件がありましたが、彼は当時イデオロギー担当に就く予定で、習近平のライバル的存在だったことは間違いありません。徐才厚、郭伯雄は二人とも軍のトップの地位にありました。彼らはみんな江沢民グループに近いところにいましたが、彼らも首を切られ、令計画は胡錦濤に近かったのですが彼もやられました。最後の周永康、この巨大な敵が一番大変だったのです。彼は江沢民派の大番頭でしたが、警察、国有企業、エネルギー関係のすべてを牛耳っていたわけで、彼を権力から引きはがすのに相当時間がかかったということです。

失脚した人たちは一応刑罰を受けていますが、実際にどのような生活をしているかはよく分かりません。江沢民グループだけではなく、従来の長老といわれていた人たち、李鵬なども含めてまだみんな健在です。その人たちが根を張り、自分たちの子ども、家族ぐるみで既得権益を作り上げているわけです。これらのネットワークは二十数年かけて築き上げてきたものです。そしてこれらの人たちは、江沢民時代に労働者だと規定されています。プロレタリアートということですが「まやかし」です。「どうして労働者なのか」と訊くと、「いや中国に資本家はいないから」というわけです。「なぜいないのですか」とさらに訊くと、「それは社会主義だから」と答えますが詭弁でしょう。

実態はどうなのかというと、「いや最終的に、国内に財産権は持っていないのだ」という言い方をしますが、彼らは海外に財産を移転していますから、どう考えてもブルジョアなわけです。しかし「中国には資本家はいない」という建前が通っているわけです。このような体制がほぼ完成したのが胡錦濤時代です。胡錦濤は政治的には全く力がなく、既得権益のグループに完全に羽交い絞めにされていたというのが分かっています。胡錦濤は中国の最高指導者として2期10年就いていたわけですが、彼は何かやったのでしょうか。いいことは結構言っているのです。「党はこのままでは崩壊する」、「とにかく腐敗を是正する」、「これだけ格差が開いたので調和のとれた社会にする」、さらには「党の執行体制をどうにかしなければ」などと言っていましたが何もできていません。ただ、日本にとっては彼がもたらした「戦略的互恵関係」は評価できます。「戦略的互恵関係」は2006年に安倍晋三首相との間に結ばれましたが、これに徹底的に反対し潰そうとしたのが江沢民グループだったということが、今では証拠がたくさん出てきて分かっています。周永康が尖閣などのデモを組織したということも、既にいろいろなところから証言が出てきています。

軍のことについても、今、よく分からない状況がたくさん起こっています。どういうことかといいますと、軍の幹部はほとんどが替わり、同時に人民解放軍の組織系統は大きく変わりました。従来からあった4つの総部、総参謀部、総政治部、総後勤部、総装備部というジェネラル・デパートメントが全部取り潰されました。そして、人民解放軍の組織系統を中央軍事委員会に全部移し、中央軍事委員会が軍のすべてを掌握するようになりました。軍事委員会の下に6軍、陸海空の部隊、さらにロケット、戦略支援、宇宙の各部隊があり、特に、空軍、ロケット軍、戦略支援部隊、サイバー部隊、宇宙軍に力点が置かれています。何故かというとアメリカと正面からは勝負できないので、ニッチで勝てるところに重点を置いている感じがします。このように、人も組織も大きく変わってきていますが、「従来の人民解放軍がどのように新しい体制に移行したのか」、そして「どのように機能しているのか」など、実態はまだよく分かりません。

さらに面白いこと、或いは困ったことと言った方がいいかも知れませんが、海警という部隊は元々幾つかあったのですが、それが一つにまとまり海警総隊になりました。そしてこの中国の海上保安庁ともいえる部隊が人民武装警察部隊の傘下に入りました。人民武装警察部隊は約100万人の要員を抱えています。この部隊は突発事件に備える、或いは中国の周辺国境の警備のためにできたものですが、今はどちらかというと中国の治安維持の役割を担っています。この人民武装警察部隊は中央軍事委員会の指揮下にあります。中国の軍は現在200万人ですから、それに100万人を加えて全部で300万人の兵士を中央軍事委員会は掌握しているわけです。尖閣諸島海域で、日本の海上保安庁は白波をけって中国の船が侵入してこないように一生懸命ガードしているわけですが、相手は既に軍の一部だということを理解しておかなければいけません。この点については中国からは正式な返答はなく、軍事行動なのかということに関しては、向こうも十分整理できていないのかも知れません。しかし実質的には軍事行動になるわけです。
このような軍の改編は全て権力の掌握のため、軍を党の管理の下に一元化し、習近平の指揮下に置くために行ったものです。トップの意志を忠実に反映させるということでしょうが、中国ではよく「上に政策があれば下に対策がある」と言われるように、組織が実際にどう動くかというのは必ずしも読めないところがあります。今後注意して見ていく必要があります。

 

三 「マルクス主義」、「経済成長」に代わる「中国を支える価値体系」の不在

中国共産党がどうして政権を取ることができたかということを考えると、勿論、毛沢東というリーダーの存在が大事なポイントになりますが、基本的には「組織とイデオロギー」だと思っています。これは別に中国という国だけではなく、どの組織でもそうでしょう。「組織とイデオロギー」即ち価値観です。これがきちんとしているかどうかが大事になります。中国ではそれまで、反乱とか暴動がいくらでも起こっていたのですが、それらには組織がなかったわけです。ただの暴動でした。そこへ、レーニン主義という中央集権的な「上から下への命令組織」を持ってきて、その組織に「共産主義、マルクス主義」という息を吹き込んだのです。ただし、農民たちに教え込むときには、マルクス主義なんて分かりませんから「貧しい境遇から君たちを救う」、「どうして君たちはこんなところで隠れるようにしていなければならないのか」などと言って、土着の秘密結社や宗教団体などを説得しながら価値観を組織に組み込んでいったわけです。従来のマルクス主義であれば都市の労働者を組織するわけですが、中国では、毛沢東の指導の下に農民がその役割を担い、「マルクス主義の中国化」というのを生むわけです。

基本は「組織とイデオロギー」ということですが、私はこの二つが習近平体制の下でどこまで確立されているかを検証するのが大事だと思っています。組織に目的性を与える価値観がきちんと注入されているかということです。習近平は組織をどこまで握ることができたのでしょうか。確かに指導部は相当変えることができましたが、それを動かすための「イデオロギー、理念」など価値観という点で見ていきますと、今でも「マルクス主義」と言っているわけです。アナクロ二ズムと言ったら怒られますが、「マルクス主義」で失敗したから改革開放に転換したわけです。もう誰もマルクスなんか勉強していません。まともな人たち或いは優秀な人たちはそのような勉強はしないで近代経済学に向っています。つまりマルクス経済主義という価値観が効力をなくしたわけです。鄧小平時代にもマルクス主義を強調したわけではありません。話しをするときに最後の一言として「マルクス主義」と付け加えるぐらいでした。彼の時代は市場原理、つまり生産力を大事にしました。別な言い方をすれば「経済成長、つまり豊かになる」ということを価値観に入れたということになるわけです。それで組織を動かしたわけです。「とにかく儲けろ」という形で組織を動かしてきたのです。

ところが今、最大の問題は「成長の鈍化」です。高度経済成長が今後見込めないという状況になっています。「経済成長」という価値観が原動力として使えないのです。これまでは労働力中心、製造業中心でやってきて需要もあったからよかったのですが、今成長が鈍化しているのはものが売れなくなってしまったからです。関税の問題もありますが、ものを作ってもアメリカにも他の国にも売れない。製造業も相当コストが上がってきてしまっているわけです。もうひとつの問題はつくり過ぎているためです。建物から何からみんなつくり過ぎて、不良債権状態が起こっているのです。中国は広いですから勝手に放置しておいて、ある事業がだめになると次のところでまた新しいものを始めていますが、結局は誰かが損をしているわけで、これ以上、中国の経済成長は見込めません。誰も中国の経済実態は分からないわけです。経済の本当の統計数字は見たことがないわけで、見ると怖いと言う人もいますが、「見たくない。だから出さないでくれ」というのが本音なのでしょう。しかしながら、米ソの冷戦の時と大きく違っているのは、中国はすでに世界の経済活動の中に組み込まれ、国際経済の重要な「演技者 アクター」になっているということです。

それでは今後、中国の経済をどうやって興隆させるかということですが、結論から言いますと、これは世界の経済学者のみならず中国の経済学者も「今後当分、経済成長は望めない」ということでは一致しています。すると経済成長のペースをどのように安定的に維持していくかということが重要になります。中国の今年1年間の大学生の卒業生はどのくらいと思いますか。とにかく大学をつくりすぎてしまい、訳のわからない大学がたくさんあります。今、毎年800万人の卒業生が出るのです。みんな就職したことになっていますが、彼らが何をしているかというと、一昨年の中国のニュービジネスの起業は550万件です。どういうことかお分かりでしょう。つまり卒業生のほとんどに起業させているわけです。それが成功するかしないか、日本だって成功率は数パーセントと言われていますので、中国では競争は激しいでしょうから高く見積もっても7パーセントぐらいでしょうか。ですから、「海外に行ける者は海外に」ということになっているわけです。
こういう状態が続いているのは、経済成長を起すための改革がストップしているからです。国有企業の改革もほとんどストップ状態で、大きな企業は潰せませんが、小さな国有企業はどんどん潰れています。今、北京の空は青空になっています。北京に行った人が「空がきれいだ」と言っていますが、3年ぐらい前は「あそこでは毒マスクをしてないと駄目だ」と言われていたのです。北京の周りの工場がなくなってしまったのです。

 

四 習近平は権力をどのくらい確立しているのか~習近平指導体制の顔ぶれ~

ここで、習近平が権力をどのくらい確立できているかについて見ていきたいと思います。先ほどの指導部の交代の話しですが、実は権力の中枢では毛沢東も同じことをやったのです。軍のトップをみんな交代させ、公安を替えて、そして宣伝機構については江青夫人を連れてきましたが思うようにいきませんでした。そこで彼は何をしたかというと、「全部壊す」といって、自分の作ったもの、共産党と政府の組織を、若者を動員して壊しにかかったわけです。これが文化大革命なのです。毛沢東も孤独になり、権力を取り切れていなかったのです。彼は一旦、引退しますが、その後劉少奇、鄧小平によって組織を固められ、自分が入り込めなくなったわけです。「鄧小平は全然俺のところに来ない」とか、毛沢東に関する文献が残っています。つまり中国で権力を握り続けるということは本当に大変なわけです。しかも今は、すでに20年から30年にわたって、改革開放による市場化、多様化が進行しています。市場経済に向けてワーッと走り出したわけですが、それが今抑えられようとしているわけです。しかもその政策を行う指導者たちは誰も選挙で選ばれた人ではありません。中国社会の中では今、「人々が行き場を失っている」という状況が起こっているのではないかと思っています。

結局、中国では人間関係ということになります。制度化されていない組織ですから。近代化された組織というのは人事の交代などの運営が原則に基づきしっかり行われています。しかし中国の場合は先ほど申し上げたように、選挙とかで選ばれるシステムそのものが公開されていませんから、人間関係が基本になっているのです。中国には元々公務員制度はなく、今まで、国家の幹部といっても全部コネでなっており、人間関係だけで組織を引っ張っていたわけです。国家試験を行うようになったのは20年ぐらい前からで天安門事件以降です。確かに徐々に人材も育ってきて、組織も次第に形づくられてきてはいますが、まだ十分に機能するところまでは行っていません。
孟宏偉国際刑事警察機構(ICPO)総裁が中国に戻ったら当局に逮捕されました。この人はICPOのトップなのに、インターポールに指名手配されていたのでしょうか(笑)。この人が、どのような経緯で上層部に昇ったのかはよく分かりませんが、ただ長く公安にいて、江沢民系特に周永康の下で仕えていたのでしょう。しかも国家海洋局に関係していて、恐らく尖閣問題にも関係していた可能性が高いと思われます。周永康は先ほど申し上げたように、尖閣のときにデモを仕掛けた張本人だというのが、香港情報で明らかになっています。

郭文貴という名前は皆さんご存知ないと思いますが、中国では有名な人です。元々王岐山などとも親しく、北京オリンピックで大儲けしたビジネスマンで、カナダに渡り、今、カナダからアメリカに亡命申請をしており、ほとんど毎日のように中国共産党のスキャンダルを暴いている人です。スキャンダルと言いましたが、一番彼が憎んでいるのはどうも王岐山らしくて、王岐山は北京オリンピックに関係していましたので、そのあたりで相当な便宜供与を受け、その後関係が壊れてしまったのでしょう。王岐山は習近平の仲間ですが、なかなか思うように上層部に昇っていけないというのはこのスキャンダルのせいだと言われています。そして、この郭文貴という人物は先ほどの孟宏偉と親しく、そのためにインターポールの事件が起こったのではないかとネット上で言われています。いろいろな話が横行していますが、ただひとつ確かなことは、郭文貴は逮捕されることはあり得ないということです。何故かというと彼とアメリカのバノン元大統領顧問と映っている写真が山のようにネット上に出ています。つまりアメリカから庇護されていると思われます。いずれにしても裏の世界のことで、話を50パーセントぐらい割り引くにしても、いろいろなネットワークが動いていると思われます。
ジャック・マー(馬雲)もよく分かりません。どうして突然にアリババ会長を辞めたのか。習近平と近いとか言われていますが、元々彼が商売をはじめていく過程で、共産党の幹部の子弟、孫の世代、特に江沢民の家族などとうまく付き合ってきたということが言われています。ですから、今回会長職を降りたのは、反腐敗闘争の一環かなという感じがしないわけでもありません。

中国の国内政治についてのまとめとして、習近平体制の指導層の顔ぶれを見てみたいと思います。国家の最高指導部、中国共産党中央政治局常務委員のメンバーです。習近平体制の一期目のメンバーのうち、張徳江、兪正声、劉雲山、張高麗はみんな江沢民系列の人たちだと思っていただいて結構です。相当左寄りの政策、左といっても中国の場合は保守になりますが、たとえば反日的な言動などを行ってきました。その中でも劉雲山が多く係わったと思いますが、彼はイデオロギー担当でまだ影響力を相当維持しています。次に張高麗が続きます。彼は金日成総合大学の卒業生でもあり、彼を中心にして抗日記念日、南京の何とか記念日を決めていきました。また彼は、全人代の常務委員長のときに、香港のトップは北京の承認が必要ということも決めました。香港では一番嫌われている人物です。彼は「THAAD問題」が起こったときの広東省のトップとして、その責任が問われようとしたとき、スーッといつの間にか広東省から消えて北京で出世していったという話がありますが、これには江沢民が関与していたと言われています。

李克強はどちらかというと胡錦濤の後継者でしたので、習近平体制の一期目は、習近平派は王岐山だけで、習近平は王岐山を使って反腐敗闘争を行ったわけです。毛沢東は机をひっくり返して組織を壊しましたが、習近平は組織を握り切れていないとはいえ、権力の上の方だけは替えることができました。そのためにやったのが「脅し」なのです。つまり反腐敗闘争です。これを今でもずっとやっています。したがって、2期目は李克強だけが残り、他の五人を入れ替えて新しい習近平体制がスタートできたわけです。メディアのコントロールもやっていますが、これ自体に一定の効果はあるもののさほど効果は出ていません。社会は変わってきています。習近平体制は最初の時期は国民から比較的好かれていました。なぜかというと反腐敗闘争を行ったからです。しかし、それもやり過ぎて今、中国の中では相当不満が多くなっています。ただ、不満を言って密告されると困るので、言いたいことも言わないでおこうという感じになっているわけです。でも次第に鬱憤が溜まってきている状況になってきています。ということで、習近平体制の権力のことについてはだいたいお分かりいただけたかなと思いますので、これから外交の話に移っていきたいと思います。

 

五 中国の「一帯一路」外交~「現代版陸海シルクロード」か「新植民地主義」か~

習近平外交というのは一体何なのでしょうか。一言ではなかなか言えませんが、一般的には「一帯一路」外交と捉えられています。でも最近は「一帯一路」もトーンダウンしてネガティブなイメージの方が世界に広がっています。何故かというと、お金ばっかり投資していますので、果たしてその回収がうまくできているかどうかについて関心が高まっているからです。回収がうまくできていないとすれば、ほとんど意味がないということにもなりかねません。今、日本の企業がたとえばベトナム、インドネシア、或いはウズベキスタンやカザフスタンでもいいのですが、そこに投資したとすると、これは「一帯一路」でしょうか。日本企業はベトナムに投資したのであって、「一帯一路」に投資したわけではありません。中国と共同で投資をするとそうなるのかも知れませんが、共同で行ったのはほとんどありません。つまり中国の目から見たら、そのような形は「一帯一路」とは言えないと思います。中国が一番期待しているのは中国に対する投資なのです。

中国の経済官庁の中で一番強いのはどこかご存知でしょうか。日本では予算を司る財務省と言われますが、中国では人民銀行です。人民銀行は改革指向が強く、元々「一帯一路」構想というのは中央銀行が打ち出したものです。「一帯一路」構想を推進しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)の理事はほとんど人民銀行から出ています。しかもトップにいるのはもちろん習近平のブレーンです。中国の場合は、財政部はお金を管理しているだけで、主計部門を持っているのは元々、ソ連の国家計画委員会を引き継いだ「国家発展改革委員会」という組織です。中国も官僚政治の傾向が強くなっていて、人民銀行が打ち立てたのが「シルクロード計画」で、その計画の中で「シルクロード基金」を作って投資を始めたわけです。そのシルクロード基金を基にして「一帯一路」という発想になっていったわけです。
皆さんは「AIIB」を覚えていますでしょうか。これは官僚組織の金取り合戦なのです。以前に商務部がアフリカとかさまざまな国に資金援助したのですが、お金を使い過ぎて怒られました。「これほど投資しているのにどうして嫌われているのだ。リターンもないではないか」ということです。そこで「中国の国内経済を興す考え方を出せ」と言われたときに、財政部が出してきたのが「AIIB」です。金融を使ってどうにかできないかという形で出てきましたが、いろいろな国の思惑が入り、「第3世界の援助」とかが言われ出し、そのうち「ガバナンスがどうのこうの」となり始めたので、みんなパッと身を退いたわけです。ですから日本が入らなくて本当によかったのです。「AIIBに日本は入らなくてもいいです」と3年前の国防協会の講演でも言いましたが、日本では当時、かなり議論になっていました。それ以外にも上海に本部を置くブリックス銀行(BRICS)とかいろいろなアイデアが出ていますが、それらの一つということでしょう。

ある人が「一帯一路」についてなるほどと思われる話をしています。「一帯一路」は、「あの星とこの星」というように幾つかの星をくっ付けている星座と同じで、何か中国がやっているように見えるけど、星座というのは元々はっきりした形があるわけではなく神話によせて勝手に作っているもので、「こちらの星とあちらの星」でもいいではないかということなのです。たまたま中国のいろいろな企業が投資しているところに行くと、これらをくっ付けて「一帯一路」と言っているけれど、国が逆に「一帯一路」だと言い出してプロジェクトに入り込み始めたら評判が悪くなりました。中国の覇権主義だということになったわけです。ということで結局、この「一帯一路」も、お金は現地の国に出させて借金漬けにし、さらにそこに中国の労働者まで派遣しているということで、「中国の新植民地主義」というふうに言われています。こういうことですので、中国は最近「一帯一路」についてはあまり言わなくなってきました。しかしこれは習近平路線そのものですから、これを取り下げるわけにはいかないでしょう。マハティールマレーシア首相にもお会いしたことがありますが、彼自身も別に中国を告発しようとか非難しようとかいうわけではありませんが「やり方がまずい」ということを言っています。

 

六 米中対立の本質~経済覇権、技術覇権をめぐる争い~

米中対立の直接の契機になったのは恐らく「中国製造2025」だと思われます。引き金になった「中国製造2025」というのは「メイドインチャイナ2025」という製造業発展計画のことで、中華人民共和国建国100年にあたる2049年ぐらいまでにアメリカに追いつき追い越す目標を立て、取りあえず第1段階として2025年までに「世界の製造強国入り」を果たすというものです。そのために中国が行っている活動について、「何でもやるのか」、「方法は関係ないのか」、「知的所有権も何もないようなサイバー活動を行っていいのか」という点を非難されているわけです。いわゆる「デジタル独裁」問題です。

中国では深圳あたりに行くと、コンビニに入ったら会計に行かなくてもオーケーです。あるいは道を歩いていると全部顔認証で、この人がどれくらい交通違反しているかとかが3秒で判明すると言われています。当然預金通帳も全部分かっています。そこから差し引かれるわけですから。こういう社会になっている、或いはなりつつあるということです。日本の我われもまだできない、アメリカでもできないようなことをしようとしているわけです。「技術優越」、今米中関係の根幹にある問題のひとつです。アメリカが本当に怒ったのがこの「デジタル独裁、デジタル専制」ということですが、普通の国ではなかなかできない、民主主義国家では絶対できないことを勝手にどんどんやっているのです。中国は独裁国家ですから、個人のデータ、プライバシー、人権などもまったく無視して、今のうちにやっておこうということなのでしょう。世界のデータをサイバーで取ろうとしていますが、これは許せないというのがアメリカの怒りの原点にあるわけです。「世界中のビッグデータを集めようとしている」といわれる中国に対し、アメリカが阻止しようとしているのが問題の本質なのです。
また、孔子学院の問題もあります。中国政府の意向を受けて、海外に展開してその国の大学など教育機関に助成金などを支援しながら、学問の自由の枠をはみ出して思想宣伝などを行っているのではないかということです。そのようなことをかなり前から聞いておりましたので、とんでもないことだと思っておりました。

それ以外にも東シナ海、南シナ海、また少数民族の問題もあり、結局今年10月のペンス副大統領の発言になってきました。ペンス副大統領の演説はハドソン研究所というところで行われ、ネット上で、全部日本語ですぐに出てきますので、どうぞご覧になっていただければと思います。翻訳されており、そんなに長いものではありません。中国が現在行っている政策を頭のてっぺんからつま先まで一つひとつ批判していて、怒り心頭に達しているというのがよく分かります。トランプさんはどちらかというと貿易のことしか発言をしておりませんが、ペンス報告というのは、アメリカ全体の意志を代表するものだと考えてよろしいかと思います。何故かというと、民主党系の知識人や元政府官僚に会う機会がありましたが、その人たちも基本的にこのペンス副大統領の報告については「そのとおりだ」と同意しています。アメリカの対中観はこの3年で180度変わったなという感じです。同じ人の発言でも3年前と全然違う逆の内容になっているのです。ただ日本の場合は目の前に、尖閣の問題とか直近の問題がいろいろありますから、アメリカほど言い切ることはできないのです。

今、トランプ政権が中国に対し、貿易上のさまざまな圧力をかけていることについて日本で見られる分析は「それほど影響はないだろう」という意見が結構多いのです。銀行の調査報告などを見ていますと、「却ってアメリカの方に影響が出るのではないか」という報告もあります。ただ注意しなければいけないのは、先ほどから申し上げている中国の本当の実態経済はどうなのかということです。公式な統計数字だけで見た場合、だいたい不良債権は日本のバブルのときと同じぐらいだと言われているわけですが、中国経済のパイは大きいから恐らくそれを吸収できるだろうという感じに今のところなっています。ただ実態を表す本当の数字が分からないわけです。実際に中国における物価など、たとえばスターバックスのコーヒーを買うにしても量は多少多いけれども高いというようなことを見ていくと、実態経済は分からなくても苦しいのではないかというのが実感です。ですから今、日本にアプローチしてきている理由もここのあたりにあるのではないかと思います。

 

七 浮き沈みのある日中関係~日本に近づき始めた中国~

日中関係については、習近平の発言とか政策から見ていると、周永康を打倒した2014年あたりから、日中の首脳外交が再び始まります。それまで日本の呼びかけに応じなかったのですが、海外における首脳外交に中国側がオーケーを出し始めるのです。習近平の発言を聞いても、ほとんど歴史問題に触れなくなってきています。もちろんマスコミをみるとたくさん出ていますが、しかし彼の発言そのものの中からはあまり出てきてはいません。そこでよく見てみると、日中関係が本当に悪くなったのは江沢民時代なのです。
江沢民については、彼の父親の江世俊は南京の汪兆銘政権の情報系統の幹部で日本軍の協力者だったわけです。これは有名な話で中国で知らない人はなく、ネット上にも相当書かれました。ただしみんな削除され、書いた人も逮捕されたりしましたが、何故か習近平になってから釈放されました。江沢民自身は南京中央大学に通っていましたが、南京中央大学は日本軍の影響下にありましたから、後ほど彼が共産党に入るときに支障となり、そこで彼は自分の親を叔父にしようと、共産党幹部の江上青の養子になったわけです。その叔父は共産党員でしたが国民党に殺されています。江沢民は日本語が上手です。昔、彼を上海で見たとかの証言もあり、真偽のほどは分かりませんでしたが、何らかの形で日本を引きずってきたという面はあると思います。

毛沢東は「日本の侵略があったので共産党が政権を取ることができた」と言っており、さらに周恩来も日中友好派で、鄧小平も基本的には日本との関係は日本に学べと言っています。胡錦濤も靖国問題などがありましたが、首脳外交を復活し「戦略的互恵関係」を築いたわけです。習近平もあまり日中の歴史問題に触れていないとすると、江沢民がただ一人、反日的要素を強く押し出していたわけです。中国では「日中関係は悪くなってもいいから歴史問題を出す」、「日本との関係を壊して拙いと思ったら歴史問題は前面に出さない」という考えが根強いですから、今歴史問題が出ていないということはいいことなのでしょう。トップが替わればスタンスが変わり、ですから、日本に近づいてきているということでしょうが、近づき方がはっきりしなかったのは、安倍首相は大丈夫なのかということが中国の中で渦巻いていたわけです。相当あったわけですが、それが今回の選挙、自民党総裁選で勝ったことが中国の態度を大きく進展させたのでしょう。総裁選に勝ってまだまだ長期政権が続くというときに事態がパッと大きく動いたわけです。そこが大きな転機になっていると思います。

中国にとってみると、どう考えてもありとあらゆる点で、日本の技術力と経済力、しかも日本の真摯に取り組んでくれる態度、これらは大事なわけです。アメリカと並んで日本の経済力は中国にとって一貫して大事なものだと思います。ところが、中国の日本に対する対応には波、浮き沈みがあるわけです。なぜこのような浮沈が出てくるかというのが、ずっと続いている私の問題意識なのです。中国にとって、日本の経済力は大切ではないということはあり得ないわけで、尖閣問題のときだって近づきたかったと思います。今回、事態が大きく動いたのは安倍総理の総裁選での勝利と、もうひとつはアメリカです。中国は今「我われはトランプ政権を掴みきれていないのに、日米関係はどんどん強くなっている」ということに気づいたのです。「日中関係が悪くなれば悪くなるほど日米同盟が強化される」ということは誰でも分かっていることで、それなのにどうして日本を叩くのかと、馬鹿なことをしていると誰もが思っていたのです。
今回中国が急激に日本に近づいた理由には2つの説があります。一つには日米の離間、もうひとつはアメリカと仲良くなりたいから日本に近づいているという説です。私は後者だと思っています、日米の離間ということがまともに考えられるでしょうか。中国の中には勿論考えている人はいると思いますが、多くの人が日米同盟の絆の強さを認識しているということは、中国の中での議論を見ていれば分かります。どういうことかというと、江沢民時代の1990年代後半から反日態度が強くなり始めました。「日本に近づかなくても、アメリカと付き合えば日本はついてくる。アメリカについてくる」という考えが支配的になり、実際に日本に関する議論は少なくなったわけです。それが変わったのが「戦略的互恵関係」のときです。つまり、歴史問題で日中がおかしくなったときにアメリカも困り、それが米中関係にも影響を及ぼすということが分かったわけです。「アメリカとさえ付き合っていれば日本がくっ付いてくるという論理が成り立たない」ということです。それで胡錦濤政権は変わりました。

その後2010年にGDPで日本を抜いてから、日本のことを再び無視するようになりました。国際関係の議論に日本はほとんど出てきませんから、「日本の影響力は大したことはない」ということになり、いわゆる「新型の大国関係」とか「G2」とかという議論が活発になり、以前のような「アメリカさえ相手にすれば、日本はついてくる」という論理に戻りましたが、今では「これはおかしいな」と思っているのです。つまり日本の主体性を認め、日本相手にしっかり対応しないとまずいということに気づいたということでしょう。
実は中国は韓国とも距離を置いており、北朝鮮にも、今はそれほど関心を抱いていないと思います。制裁もあまり行わず、アメリカからは不信を持たれていますが、中国の朝鮮半島に対する関心は「在韓米軍の存在」の一点にあります。在韓米軍と「高高度ミサイル防衛(THAAD)」です。この脅威を軽減させるために「朝鮮戦争終戦協定」を結びたいというところに力点を置いているわけです。韓国、北朝鮮はともに「終戦協定」を要望していますが、北朝鮮は本音として「在韓米軍の駐留を望んでいるのではないか」という皮肉的な見方が強くあります。何故かというと、経済的に中国に依存していますので、在韓米軍がいなくなれば中国の影響力が大きくなりますが、そのことが、「北にとってのメリットになるかどうか」という議論が北朝鮮の中にもあるということが言われています。いずれにせよ、中国はそのような複雑な要因を抱えながら、日本に近づいてきているということは間違いありません。

今回の一連の動きに対しては、内部でも批判があるようです。大きくはアメリカに対する批判や不満なのですが、結局トランプを理解していないのです。世界では、アメリカを理解できなくて頭を悩ましている人がいるわけですが、今中国も、アメリカとの関係をどのようにしていいか分からなくなってきている状態ではないかと思います。先ほどのペンス副大統領の演説については、民主党系統の人たちまで賛同していますので、アメリカ全体がそのように考え始めたということで、非常に大きな意味があります。中国では国際主義の人たちもたくさんいますが、今は発言力がありません。国全体の閉鎖的な雰囲気の中で国際派、改革派が小さくなっているわけです。「日本とこんなに仲良くなってどうするのだ」という声も結構出てきているというように聞いています。

 

八 日本の今後の対応~外交、安全保障、経済政策の連携~

中国は国内では一応舵を新たな方向に切っています。ただ内部では「一帯一路」についての批判が出ているでしょう。また「アメリカとの関係調整に失敗している」ことにも批判的でしょうし、「アメリカに頭を下げようとしている」となるとさらに批判が出てくるでしょう。いろいろな問題が国内にあると思いますが、ただ習近平一人しかトップはいませんので彼を潰すことはないでしょう。しかし、周りの既得権益勢力は引き続き「自分たちの影響力を保持し習近平を裸の王様にしよう」としている状況ではないか思います。
問題は、我われ日本はどうしたらよいかということです。東シナ海、南シナ海の問題もそうですが、最近の日本は米軍との共同行動が顕著に目立つようになってきました。さらに特徴的なことは外交と安全保障がかなり一体化してきているということです。私は防衛大学校で横須賀におり、直接係わっているわけではありませんので政権内のことはよく分かりませんが、外部のさまざまな動きを見ているだけでも相当緊密な関係になってきているのが分かります。内閣の安全保障局の創設についてもそうだと思います。

安倍総理が首脳外交で中国に行く直前に、日本海でB52とF15が共同訓練をしましたが中国は何も言いません。このように、日米の共同訓練をしながら外交を進めるなど、連携してきちんと足並みを揃えてやっていくことが大事です。それでも中国は日本との接近を図っているということです。これは非常に大事なことだと思います。日米の連携の下、外交と安全保障がうまく機能していますが、次はこれにプラスして経済だと思います。「外務省、防衛省、経産省或いは財務省などがきちんと連携して対応できるかどうか」が非常に大事だと、私は元々思っていましたが、最近の状況はよい方向に進んでいるなと感じています。
中国は東シナ海にストレートに出て行きたいのです。多分これからさまざまなメカニズムを構築してきますので、日本との間でいろいろなことが生起するのでしょう。公海を経由して手を出そうとしているのが太平洋の島々の国々です。フィジー、サモア、バヌアツ、パプアニューギニアとかそういうところに港湾を造っているわけです。日本の尖閣諸島を抜けて公海に出ると、目の前には太平洋が広がります。もちろんアメリカの顔色を窺いながら少しずつやっていくのでしょうが、オーストラリアが遂に怒り出したという話も聞こえてきます。オーストラリアやニュージーランドから見ると「中国は何をやっているのか」ということです。このような動きに日本が同調するということも考えられます。「一帯一路」もいろいろなところに波紋を広げているわけですが、外から見ると相当批判的な論調が強くなってきているということです。

アメリカは今「インド太平洋構想」を打ち出しています。戦略という言葉は使っていませんが、「一帯一路」と対峙して私は「いいのではないか」と思っています。しかし、それはそれとして中国との外交的な対話は大事だと思います。問題はペンス報告の最後の部分です。ペンス報告は中国を敵にしているのでしょうか。それについては、昨日もポンペオ国務長官は「中国にはこちらに入って来て欲しい。中国は依然として敵ではない」という言い方をしています。中国に対する「エンゲージメント、関与」です。「こちら側に引き込み、こちらのルールに入ってもらうということを諦めていない」と明言していました。実はペンス副大統領も、スピーチの最後の部分で「改革開放の重要性」に触れているわけです。ですから「冷戦宣言」では必ずしもありません。冷戦の一歩手前の宣言であるという感じがしています。安倍総理の発言などを総合しますと「日本も中国を敵にしているわけではない」ということです。日本外交というのは一貫しています。「『中国をどうやって国際ルールの中に入れていくか』が重要であり、これは日本一国だけではできない」というのが70年代からの日本の対中国政策です。以前は中国の経済力が日本の何十分の一であった時代もありますが、そういう時代から日本の対中国政策の基本は変わっていません。
世界には「中国は今のような状態で、国をきちんと運営していけるのか」という懐疑的な意見もありますが、アメリカのペンス副大統領もポンペオ国務長官も「中国は多くのことを考慮しながら国を運営し、ここまで大きくなってきたのだろう」と言っており、否定的な見方はしていません。ですから、日本の立場としては「対話と抑止」、「日米同盟の堅持」、これらは当然ですが、あとは外交、防衛そして経済の一体化というのが必要になってくると思われます。

 

九 多くの課題を抱える習近平の新時代~「正当性の確立」、「所得の再配分」など~

結論になりますが、習近平体制は依然として権力確立の途上にあります。中国においては権力政治というのが一貫して続いています。中国においては社会、経済の体制が相当変わってきていますが、一番大事なことは「正当性は何か」ということなのです。「台湾問題」、「日本問題」はすでにこれまで使いすぎて、正当性を主張する根拠にはならなくなってきているわけです。今は、誰にとっても生活が大事で、生活防衛に追われています。しかも1億人ぐらいは、ある程度の海外旅行までできるようになりましたが、残りの12~13億の人たちをどうするのかという話が重要になります。「所得の再配分はどうするのか」、「社会保障はどうするのか」というと、そのようなものは何もないわけです。そういう状態を「これからどうやって改善していくのか」というのが重要な課題になります。国を運営する価値観が、今でも建前としている「マルクス主義」で通用するはずがありません。大きな問題に直面しているわけです。「民主主義ともいえない」、「儒教ともいえない」、「生産力主義ともいえない」というような状況の中、本当にどうするのでしょうか。解答を見つけるのは容易ではありません。ですから「今は取りあえず、上から押さえている」そういうことだと思います。押さえつけた後に何をするのかというと、何もしていないのです。多分やりだすと怖いのかも知れません。或いは本当にないのかも知れません。今のところはとにかく「刈入れすること、収穫すること」に集中しているのかも知れません。

ということで「習近平の新時代」と言っていますが、この「新時代の意味」が益々分からなくなってきているのが現在の状況です。結局、中国問題を通して「日米同盟の重要性」というのが益々クローズアップされ、日米中の新たな関係構築が大事になってきているということでしょう。
以上で、私の話を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

平成三十年十一月十四日 公益財団法人日本国防協会 国防問題講演会講演録より