トランプ政権と中国、そして日本の防衛
産経新聞ワシントン駐在客員特派員
古森 義久 氏

今、アメリカではドナルド・トランプ大統領というアメリカの政治史の中でも特殊な例外的な人物がリーダーになっており、これに対して全世界が注目しているわけです。アメリカ大統領の言動には、誰であっても、好きな人でも嫌いな人でも注意を払わざるを得ないという現実があるわけですが、トランプ大統領に対して向けられる視線、注視される度合いというのは異様なほど高いものがあります。日本の中でも、アメリカ大統領、さらにアメリカ政治というものがこれほど身近というか、関心の対象となったことはあまりないと思います。テレビをつけると、ニュース番組ではない娯楽番組でも「トランプがどうのこうの」、「トランプはけしからん」とか言っていて、「一億総トランプ評論家」みたいな感じになっており、いろいろな意味でトランプさんが身近な存在になってきたと感じています。

私はワシントンに長く居て知り合いも多く、トランプ政権と直接関わった人と話すこともありますし、トランプ大統領自身のスピーチに耳を傾けることもあります。アメリカでのことは、いうなれば皮膚感覚で把握していると思っていますが、日本に来てみると、日本で語られるトランプ大統領の評価は、アメリカにおける現実とはかなり違っている部分があると強く感じています。

 

一 日本におけるトランプ評価の特徴

では、日本のトランプ評価にはどのような特徴があるのでしょうか。私なりにまとめてみますと、だいたい4つの特徴があります。
一つは、「トランプはすぐに辞任に追い込まれる」という予測です。アメリカ通といわれるような人でも、トランプ政権が誕生したときから「長くは続かない」とずっと言っています。「世論調査の支持率が史上最低だからまもなく辞任する」と大手の週刊誌が堂々と主張し、私もコメントを求められて「アメリカの政治は、世論調査の支持率が低いから行政府の長が倒れるような仕組みではない」と一生懸命言っているのですが、なかなか聞き入れられません。日本の議会制民主主義と混同しているのです。
議会で選ばれる首相が、世論調査の支持率の動向に大きな関心を寄せるのとはちょっと違います。ロシア疑惑というのが言われています。そしてロシア疑惑に関連して「トランプは弾劾されてしまう。弾劾されてすぐ辞めてしまう」という話が出てきました。ところが弾劾というのは、アメリカの議会が動かないと進みません。今の議会は御存知のように、下院上院両方とも、トランプを選んだ共和党が多数派を占めていますから、自分たちが長い時間をかけて選んだ大統領を直ぐに弾劾で辞めさせるということは、どんな疑惑があったとしてもあり得ないわけです。また、この疑惑に関しても本質的なクロだという証拠は何ら出てきていません。
よく「人事の変動が激しい。側近や閣僚の人事が目まぐるしく替わっている」と言われています。確かに、側近の人事は人間関係の影響を強く受けますので替わっていますが、閣僚の人事は意外と替っていないのです。「終わりの始まり」ということを何人ものアメリカ通といわれる人たちが言っていますが、1年4ヶ月経っても全然倒れません。倒れないどころかむしろ支持率が上がってきています。トランプは益々自信をつけてきている状況になっています。

二つ目の日本のトランプ論の特徴は「彼には政策がない。衝動的である。公約を守っていない。そもそも公約があるかどうかも分からない」、このような論調が多いことです。日本のテレビには「トランプは何もしていない」と言っている日本語に堪能なアメリカ人のコメンテーターがよく出てきます。民主党支持とか個人的な事情もあるのでしょうが、これほど間違った評価はありません。私が見ても、トランプほど動きまわっている大統領はいません。連日のようにワシントンから中西部や南部に出かけて行って、一般大衆にどんどん話しかけています。
彼は最近演説が益々上手というか得意になってきています。いきなり話し始めると一時間ぐらいはテキストなしで続けます。たとえテキストが準備されていても「テキストは見ない」と言って演説を行いますが、聞いていると起承転結がきちんとしていて、話が面白くて引き込まれていきます。とにかく活動しているわけです。
トランプはこれまで、アメリカの国内外、日本も含めて皆がびっくり仰天するような措置をいろいろ取ってきました。これらについては「元々彼には信条というか一貫した思想がなくて、思いつきで衝動的にやっている」という評価があり、また、「中間選挙を意識してやっている」とも言われていますが、それは違います。

トランプほど政策の実行を予測し易い大統領はいないと私は思っています。彼は今まで公約してきたことを順番にやっているだけなのです。「TPP(環太平洋パートナーシップ)」は就任後すぐに止めています。これは前から止めると言っていました。今朝の一番大きなニュースの「イランとの核合意からの撤退」も、衝動的とか中間選挙が近いからとか言われていますがそうではありません。この表明はアメリカの中でも反発を呼んでいますし、これによって中間選挙で各地に散らばっている共和党の議員に有利になるという保証はありません。実は「イランとの核合意破棄」は、選挙中からトランプ大統領自身或いはトランプ陣営が、選挙に当選したら「これだけは変えますよ」と言ってきた主要公約の一つなのです。破棄という言葉から「今すぐに撤退、引き上げ、離脱」というイメージが強調されています。日本のメディアでは、トランプ大統領が朝起きて「今日は天気がよいな。ではイランの核合意でも破棄するか」(笑)と、そのような感じの描写がありますがとんでもないことです。
振り返ってみると、大統領選の行われる2ヶ月ぐらい前、ペンシルバニアのゲティスバーグという南北戦争の主戦場となったところでトランプが演説し、アメリカ有権者との契約ともいうべき公約を発表しました。これは非常に具体的で、この中にこれまで行い、また、これから行うであろう政策が全部入っています。日本ではトランプに対する誤解が多いのです。

三つ目は、「トランプは無知である。愚かである」と、このように言われていることです。日本の女医さんで「トランプはサイコパスだ」と言っている人がいますが、サイコパスというのは完全に気が狂った人のことをいいます。確かに、ものの言い方がこれまでの大統領や政治リーダーたちと違うのは間違いありませんが、彼の英語というのは外国人にとっても非常に分かり易いのです。一般の人が使う言葉を政治用語として使っていて、例えば中学校1年生の教科書に出てくる「good よい」とか「bad 悪い」とかいう表現が多いです。イランとの核合意は「bad」だということです。オバマとかブッシュだとか歴代の大統領は、公式の声明の中で「good」とか「bad」とかはあまり使いません。トランプ大統領はまた「stupid 愚か」という言葉をよく使います。分かり易い言葉です。しかしそれがあまりにも通俗で大衆的過ぎて、インテリといわれている人たちの反発を買うことも多いのです。

英語に関していうと、息子の方のブッシュもハーバード大学に行って修士課程を終えたインテリでしたけれども、言葉の使い方が大衆的で、また言葉をよく間違えるのです。例えば、「過小評価するunderestimate」という言葉がありますが、これをわざわざ「mis-underestimate」と言っています。これは間違いなのです。我々が聞いても間違いと分かるのですが、それでも平気で使います。それから「strategy 戦略」という言葉があります。彼の有名なミスですけれども、これを彼は「ストラテジー」ではなく「ストラトジリー」と発音したのです。これは全くの間違いなので笑われましたが、そうしたら、ブッシュをサポートする人たちが集まってきて「ストラトジリー・クラブ」を作ろうということになりました。これは、「ブッシュさんは可愛い奴だからサポートしてあげよう」というわけです。
この種の間違いをトランプはしません。ただ乱暴な言葉はよく使います。政治用語でないような言葉も平気で使います。民主党のトランプ大嫌いという人たちの中の精神医学者たちが集まって「トランプは精神的におかしい」ということまで言ったことがあります。今、日本でも、「精神病」という言葉を使ってはいけないという「ポリティカルコレクトネス political correctness」が拡がっていますが、このトランプ診断に対してアメリカでも、精神医学会という組織が「診断をしてない人に対して精神状態について云々するのはよくない。倫理に反する」という声明まで出しています。このように、アメリカ国内でも「トランプ、おかしい」という声がありますが、「いやいや、トランプは全然おかしくない。彼こそ頼りになる人物だ」と思っている人もいるわけです。だからこそ、トランプは大統領でいられるわけです。

四つ目は日本の報道になりますが、「トランプを支持している人たちの動き、考え方をほとんど伝えていない」という特徴があります。トランプを支持している人たちはいるわけです。世論調査では史上最低などと言われていますけれども、最近のいろいろな調査では40パーセントくらいで、先日、CNNというトランプが一番嫌いなメディアの実施した調査でも、50パーセントという数字が出ています。このあたりの「なぜトランプを支持するか」、「どういう人たちがトランプを支持しているのか」というところが、日本ではなかなか伝えられていません。多数の支持者が存在するという事実さえも日本の主要メディアは伝えていないという印象です。

 

二 トランプ大統領の公約

トランプ大統領の公約についてお話ししますと、大胆な政策がたくさん含まれています。TPPに始まり、最高裁判所に保守系の法律家を判事として送り込むことを公約に掲げ、大統領就任後直ちに実行しています。最高裁判所の判事の顔ぶれがどうなるかというのは、アメリカの政治にとって非常に重要な意味を持ちます。実際問題として、政治、行政だけでは決着がつかない重要案件というのが出てきます。一番いい例が2000年の大統領選挙です。ジョージ・W・ブッシュとアル・ゴアが争い、フロリダ州でギリギリの僅差でどっちが勝ったのか分からないということになりましたが、結局、最高裁の判断を仰ぐということになりました。
それから、トランプ氏はイスラム系テロ組織、イスラム国の本拠地を撲滅するということを、対外戦略の優先事項として掲げましたがこれも果たしています。まだイスラムテロが無くなったわけではありませんが、イスラム国と称するグループの本拠地が壊滅したことは間違いありません。これには、アメリカの力が大きな役割を果たしています。
「NAFTA(北米自由貿易協定)」の見直しも行っています。石油をアラスカからアメリカ本土に送っているパイプラインがあります。経済効果だけを考えたら非常に効率がよく、積極的に推進しようとするグループがいましたが、オバマ政権のときには環境を破壊するということで禁止になっていました。これについて、トランプ大統領は選挙中から「自分が当選したらひっくり返す」ということを主張し、現在、石油のパイプラインは復活しています。

石炭は地球温暖化の敵と言われています。一番汚染の排気が多く、オバマ政権のときには、石炭生産に対して非常に厳しい規制がかかっていました。ワシントンからそう遠くないところにウェストバージニア州というアメリカ最大の石炭の拠点がありますが、オバマ大統領のときには、ここの人たちは元気がありませんでした。だがトランプ政権下では、ここも復活しています。最近では、アメリカの石炭をヨーロッパ諸国が大量に買っています。トランプ大統領は、地球温暖化を防ぐための排ガス規制をうたった国際規約のパリ協定から離脱し批判されましたが、「パリ協定の最大の敵は石炭だ」と言っていたフランスなどヨーロッパ諸国が、今、その石炭をアメリカから再び買うようになりました。「これは偽善ではないか」と、トランプ政権の側近は言っていますが、そのような現象も起きてきています。
エルサレムをイスラエルの首都として認定することを前提として、「アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移す」ということは、既にアメリカ議会で決定されたことです。民主党も大賛成で「早く実行するように」と歴代の政権に対して圧力をかけてきた超党派のコンセンサスなのです。歴代大統領がアラブ諸国の反発を避けるためにずっと先延ばしにしていました。1995年、今から20年以上前に「エルサレム大使館法」という法律が議会で成立しましたが、それを実行することなく、署名延期の措置を歴代大統領は続けてきました。今回、トランプ大統領は署名の延期はしないと表明しましたが、日本では非常に評判が悪く、ヨーロッパ諸国でも多くの反対があります。これは中東問題に関して、イスラエルの言い分に耳を傾けるか、パレスチナの言っていることに最大限の注意を向けるかによって見方が変わってくるわけです。アメリカの中ではほとんどの人が賛成しており、トランプ大統領がふと思いついて衝動的に行ったということとは全く違うわけです。

日本国内では「トランプはけしからん。彼の政策はおかしい。人間的にも問題がある」とよく言われます。批判はいくらしても構わないと思います。それこそ言論は自由ですので、同盟国で民主的に選ばれた元首であっても、その言動におかしいことがあれば日本として批判して全く構わないと思います。それはいいのですが、そこから話が進み「トランプは間もなく、来週あたりにでも倒れる」と堂々と言っている人たちがいます。敢えて実名は出しませんが、アメリカ通と言われている人たちです。トランプの悪口を言えばいうほど、日本のマスコミにおける自分の良識度、常識度が高くなるような、そのような集団的心理を感じるわけです。「トランプは愚かである」と、あまり客観的、科学的な根拠のない、IQ指数を調べたわけでもないのでしょうし、そのあたりの評論はかまわないと思いますが、ただ「彼は倒れるぞ」というような予測、或いは「彼は公約を実行していない」という断定、これは明らかな誤認、間違いだと思います。

人事を見ると、ジョン・ボルトンという人がいます。日本では人気がなくタカ派とか強硬派だとか言われていますけれども、この人は共和党保守のイデオローグ(理論派)です。国際情勢に精通したこの人が国家安全保障の特別補佐官になりました。もう一人、国務長官に就任したマイク・ポンぺオがいます。彼は陸軍士官学校を卒業した陸軍軍人で、ハーバード大学で弁護士の資格を取って下院議員になり、以来ずっと活躍してきた人で、CIA長官として歴史的な米朝会談を前にして北朝鮮に渡ったという話題の人物です。この人は一貫してトランプと同じことを主張してきた人です。
例えば「イランの核合意は信用できない。オバマ政権が作り上げた核合意というのは2025年までで、それまでの間はイランの核兵器製造という行為を抑える効果はあるかも知れないが、その後は野放しになってしまう」ということを言っています。イスラエルでは、ネタニヤフ首相がイランとは犬猿の仲ですから「イランは国際社会を騙している。核兵器を作る計画は以前から存在している」と主張しています。ポンペオ氏とトランプ氏の波長は合うのです。そんな人物が国務長官になれば、大統領も外交がやりやすくなるでしょう。
今日明日のアメリカの報道を日本で見ると、「トランプ政権がイラン核合意から撤退したのは無謀でけしからん。危険な行為であり、とんでもないこと」という論調で全部埋まってしまいますが、アメリカの中では、イラン問題というものの本質をどのように認識するかについて考え方が分かれるのです。イランを善意で見てきたオバマ政権が、その善意に基づいて作り上げたのが今のイランとの核合意です。「そうではない。イランという国は信用できない」と、悪意と言っていいのかどうかは分かりませんが、現実的な見方というか、イラン不信論者たちがずっと言ってきた意見が今のトランプの決断に象徴されているわけです。それなりに体系的に認識、判断した結果として、こういう措置が出てきたことだけは知っておくべきだと思います。

 

三 トランプならではの政策~中国との貿易問題と移民問題

トランプがトランプらしくなってきているということについて、ごく最近二つほど分かり易い実例があります。
一つは今日の話の本題である中国に関してですが、アメリカは鉄鋼とアルミに関税をかけています。これについては日本も被害を受けています。これもトランプ大統領が選挙中からずっと言ってきた「中国の貿易のやり方は不公正であり、アメリカが損をしている」という認識に基づいているわけです。私も中国に駐在したことがありますが、今の中国のやり方、すなわち政府が介入する計画経済的国家統制経済は、市場経済とは基本的に相反するところがあると思っています。例えば外資ですが、外国の企業が中国に投資をして生産施設を作るときに、単独での操業を認めず、全部合弁会社にしなければいけません。そしてその立場を利用して、「高度技術の提供」、「コントロールは中国側企業が行う」などを要求してくるわけですが、いうまでもなく、これらはWTOの規則に反するわけです。
或いは「知的所有権」という問題があります。知的所有権というと、我われはあまり肌で感じないかも知れませんが、簡単に言えば偽造品・模造品です。中国には巨大な偽造品・模造品産業というのが存在し、日本の企業も大きな被害を受けています。偽造・模造文化というのがあるわけです。日本の企業は弱い立場にありますから、中国に向かってなかなか抗議をしません。アメリカの企業は何か言っても、「歴史問題で反省していないではないか」というような非難は受けませんから、割合活発に中国とやり合っています。

私が中国に駐在していたときは、日本の会社の二つの事例がありました。一つは本田技研のオートバイです。中国の企業は、商標、特許なんか完全に無視して偽造品を作るのです。大量に作って、ローマ字で「HONDA」と書くところに「HONGDA」とGを一文字入れ、ホングダといってインドとかベトナムにどんどん輸出しています。これについては本田技研も訴訟を起こしていました。
もう一つはご存知の方がいらっしゃるかも知れませんが、愛知県に「マキタ」という名前の電動工具のメーカーがあります。非常に優秀な電動工具を各種作っていて、それほど大きな会社ではありませんが、製品によっては、1社で世界市場の20パーセントのシェアを占めています。中国はこの「マキタ」という名前を使って偽造品を作っているのです。上海の近くに余姚という人口30万人ぐらいの都市があって、「マキタ」という名の電動工具を作るだけで町全体の生活が成り立っています。いろいろな種類の電動工具の偽物を町の中で手分けして作っています。製品を買うと保証書というのがありますが、保証書だけの偽造をしている工場もあります。ここが先ごろついに、中国当局の手入れを受けて押収されたというニュースが出たこともありますが、3年、4年と経ってきますと、また同じようなことが起こってきます。実際には全く変わっていかないわけです。

ですから、トランプが中国に対して関税をかけるという行為について、日本のメディアでは「保護主義的でけしからん」というのが論調の主流ですが、それにはそれなりの理由があるのです。原因があり、その結果としてこのようなアメリカ側の反発となっているわけです。今の中国の貿易のやり方、物の作り方、外国企業が入ってきた場合の扱い方など、「これらはおかしい」ということへの抗議なのです。日本のメディアは、その原因の方をほとんど言わないで結果だけを報じますので、「トランプは今の自由貿易という大原則に背を向け、とんでもないこと、けしからんことを行っている」というイメージになってしまうわけです。中国はアメリカの農産物をどんどん輸入しており、トウモロコシ、大豆などはアメリカの農家にとって、中国は最大の輸出先になっています。これに対して中国も「農産物に関税をかける」と応酬してきており、トランプ政権にとっては国内対策上好ましくない事態になってきます。来たる中間選挙で共和党にとって不利に働くわけですが、それでもトランプは断固とした措置を取ろうとしています。
これらのことは「トランプは公約を守る」というトランプらしさの顕れともいえます。このようなアメリカの出方に対して、中国は習近平自身が出てきて、ある経済会議で演説し、「中国側も是正します。合弁企業の義務付けは止めます」ということまで言うようになりました。中国も「アメリカと正面対決となる戦いは避ける」という方針はまだまだ続けていくものと思われます。

もうひとつトランプらしい行動というのは「移民問題」です。移民についてはメキシコ国境に壁を作るということで物議を醸していますが、ごく最近では国境の取り締まりに州兵を出動させています。州兵はナショナルガードといって、例えばカリフォルニア州とかテキサス州などの州に米連邦の軍とは別に軍隊がいて、国内の治安維持を主な任務としています。この州兵を出動させ、今までも例はありますけれども、ちょっと物騒な感じになりました。なぜそうしたかというと、中南米諸国からアメリカに入ろうとする人たちがものすごく多くなってきているので、それを阻止しようとしたわけです。
メキシコの南にあるホンジュラスという国、貧困で悩んでいる国ですが、この国の人たちがトランプ政権に抗議する或いはアピールするということで、キャラバン行列を作って行進を始め、メキシコを通ってアメリカ国境へ近づいてきました。
トランプにしてみると「こんなことはとんでもない」という思いで、キャラバンの何千人という人たちを止めるため州兵を出すという措置を取りました。日本の一部メディアが批判するような人種差別主義の表れではないのです。

トランプらしいことといえば、アメリカの地方自治体の中に「サンクチュアリー(聖域)」という制度があります。サンクチュアリーというのは、神聖で入ってはいけない、触れてはいけない聖域ということです。例えばロサンゼルスという都市が「自分たちはサンクチュアリーである」ということを宣言します。何に対する聖域かというと「違法難民の取り締まりをしない、外国人の居住者がいても違法か合法かということを一切問わない」ということです。これはいかにも「移民によって国が創られたアメリカ」らしく、寛容な政策の顕れといえます。今ではこれが行き過ぎてしまい、サンフランシスコのすぐ近くにあるオークランドという都市で、入国管理局がその地域の違法入国者の取り締まりを始めようとしたときに、女性の市長が事前にそれを知り「自分たちはサンクチュアリー・シティ(聖域都市)だから、違法合法を問わず外国人を守らなくてはいけない」と表明したこともありました。事前に取り締まりの予定を公表してしまったのです。トランプ大統領は激怒しました。
アメリカの都市には、合法的に入ってきている外国人も大勢いますし、普通のアメリカ人が違法の外国人に自分たちの職を奪われるとか、治安が悪くなるということもあるわけです。このあたりについて、オバマ政権時代は一切取り締まりを強化しませんでしたが、トランプはそれに反対して取り締まりを行っています。「サンクチュアリー・シティ」に対して連邦政府がそれを直接変えることはできませんが、ただそれを宣言している地方自治体に対して、連邦政府がいろいろな形で出している補助金については「補助金は出さない」という措置を取っています。これもトランプ政権らしいやり方なわけです。

トランプの登場によって、アメリカ国内では、政治はもちろん経済・文化その他ががらりと変わってきています。これは非常に大きな変化ですが、変化を望まない人もいますから抵抗も強く、混乱状態というか対決という状況も起きています。ただし、反トランプ派の人たちでも、経済についてはトランプ政権の成果を認めています。アメリカの経済は、現在は近年中でも最もよくなってきています。例えば失業率はずっと減ってきて、何十年ぶりという最低の失業率になっています。経済の成長率も、ここ10~20年にわたり続いてきた3パーセントを超えて非常に高くなりました。雇用も大幅に増えました。それから減税です。法人税は35パーセントから21パーセントに引き下げられました。法人税の大幅な減税で、大企業は特別にボーナスを出したりして、経済界はトランプの経済政策を歓迎しています。また、トランプは大幅な規制緩和も行っています。このように、「アメリカ経済は良好」というのが超党派の統一した認識になってきました。民主党の人に言わせれば「これはオバマのときからいろいろやってきたことの継続だ」ということでしょうが、ちょっとその主張には無理があると思われます。

 

四 トランプ政権の対外政策の特徴

次に「対外戦略」はどうでしょうか。トランプ政権の対外政策の特徴を幾つか挙げてみますと、まず「アメリカ第一」ということを言っています。「アメリカ国民の権利、主権国家が大事だ」と言っています。国際グローバリズムとか国際協調とか多国間協議とかいろいろありますが、国際社会で一番大きな役割を果たすのは主権国家であり、自分たちの国だと主張しています。ですから彼自身は国連の演説で「原則を堅持した現実主義」という点を強調しました。「アメリカ第一」というのは孤立主義とよく間違えられ易いのですが、孤立主義ではありません。「選別的な関与」という表現が適切でしょう。これは何かあったときにはただ距離を置くのではなく、必要があれば素早く介入していくというやり方です。トランプは国際協調グローバリズムを批判しながらも、「強いアメリカ、偉大なアメリカ、アメリカの威信」を標榜してグローバルな規模で軍事力を強化し、いざというときには「軍事力使用も躊躇しない」と宣言しています。

「選別的な関与」についていえば、例えばシリアでアサド政権が化学兵器を使ったことへ対応して、2度にわたってトランプ政権は制裁措置としてミサイルを撃ちこんでいます。一部メディアで言われているような孤立主義などではありません。しかし、オバマ政権或いはその前のブッシュ政権のときとは介入のスタンスを異にしています。
以前の政権では、世界の他の地域でアメリカにとり好ましくない危険な事態が発生した場合、まず軍事力を投入してその動きを押さえ、コースを変えるか逆転させた後に、民主主義に基づく新しい政権の樹立、そして国づくりなどを行っています。
このようなことはトランプはやりません。国づくりということなどはやらないで、アメリカにとって好ましくない動きだけを抑える、止めさせるということです。民主主義を全世界に拡げるなどということは言わないのです。

では中国に対してはどうなのでしょうか。まずひとつ言えることは、アメリカの中国政策は今、非常に大きな歴史的転換点を迎えつつあります。その前提として、トランプ政権の政策にかかわらず、「これまでの中国に対するアメリカ歴代政府の政策は間違っていた。失敗した」という認識が拡がってきていることがあります。
今までの歴代政権の中国政策は一言でいうと「関与政策」です。どういうものかというと「中国は共産主義体制で、普遍的価値観がアメリカとはいろいろと違うところがあるが、今の中国をより豊かにより強くしていくことによって、国際秩序、国際社会に中国が普通の一員として入ってこられるようにするため、アメリカはいろいろな協力を行う。そうすればアメリカにとって好ましくない共産主義の非民主主義的な面を減らすことができる」と、このような「関与政策」をずっとやってきたわけです。

この「関与政策」について最近になり、ワシントンをはじめとする国政の場で「中国への関与政策はうまく機能しなかった。中国は自分たちが思うようには動いてくれない」という認識で一致してきています。アメリカが戦後、先頭に立って営々と築いてきた国際秩序、これは国際連合、NATO、IMFとかいろいろありますが、いずれも自由主義と民主主義が基盤になっています。これらを基盤とする国際秩序に対して、中国は依然として、背は向けないまでも一線を引いていて、完全に同意する形では入ってきていません。中国国内を見ても民主的とはほど遠く、むしろ逆の方向に向かっています。
このような中国のスタンスをはっきりとアメリカに突き付けたのが、つい最近行われた中国共産党大会における「国家主席には永遠に任期をつけない」という決定です。習近平自身が永遠にやるかどうかは分かりませんが、とにかく永遠に独裁的な立場に留まれる可能性を認めたということで、民主主義から大きく離れていく動きでした。
トランプ政権内の中国に対する認識は「貿易面では異質の国であって、自由貿易、市場経済のルールに沿っていない」ということで一致しています。ただトランプは、彼の欠点とも言えるのでしょうが、ときどき「習近平は私の友達だ」とか国際関係上あまり意味のない言葉を使って周りを困惑させています。

もうひとつ、中国に対するトランプ政権の姿勢がよく分からないという大きな原因は「北朝鮮」です。アメリカは「北朝鮮に経済制裁を加えて核兵器の開発を諦めさせる」という戦略に基づいて、中国に対して去年の4月に経済面での協力を頼みました。100日間の猶予を設けて中国の対応を注視していましたが、結果として、満足のいくものではありませんでしたが、ただ最近、中国は結構同調するようになってきています。
「北朝鮮問題で中国にお願いする」ということについて「トランプ政権の対中姿勢には甘いところがあるのではないか」という観測が日本でもありますが、本質的にはアメリカは、「今の中国共産党政権のあり方を放置できない」ということではっきりしていると思います。

 

五 安全保障面におけるトランプ政権の中国政策

安全保障面では、トランプ政権は中国に対してどんな姿勢を取っているのでしょうか。これをはっきりさせるものに、最近トランプ政権が発表した政策文書があります。
最初は、去年の12月中旬に出した「国家安全保障戦略」というものです。トランプ大統領の名前で出したかなり分厚いページのものですが、これによると、中国に対してトランプ政権は「対決姿勢で行く」という立場を明らかにしています。
そこの部分を簡単に紹介しますと、
「中国はインド太平洋地域で、米国に取って代わり自国の国家主導型経済モデルを拡大し、地域全体の秩序を中国の好む形に変革しようとしている。中国はこの地域への進出を、他の国にも利益をもたらすと宣伝しているが、現実にはインド太平洋地域の多くの国の主権を制限し、中国の覇権を拡げるものである」と述べています。
ここで皆さんには、ひとつのキーワードが浮かぶと思います。そうです、「一帯一路」です。これこそが正に中国の野望だというのが、アメリカの超党派の認識です。日本が大型公共事業などの目先の利益に釣られて「協力する」と言っても、アメリカの主流派から見たらとんでもないということです。「一帯一路」というのは、中国が安全保障に絡めて、不透明かつ非民主主義的な経済モデルを拡張しようとする野望であり、「これに協力するなんてとんでもない」というのがトランプ政権の考えです。

「国家安全保障戦略」は次のようなことも言っています。
「米国の期待とは正反対に、中国は他の国の主権を侵害しながら自国のパワーを拡大してきた。中国は、他諸国の情報を不当かつ大規模に取得、悪用し、自国の汚職を隠し、国民の監視をも含む情報管理体制を拡大しようとしている」と。これは私の意見ではなく、トランプ政権が「国家安全保障戦略」で述べていることです。
さらに、「中国は世界で米国に次ぐ大規模かつ強力な軍隊を築いている。核戦力は拡大し多様化している。中国の軍備の近代化と経済の拡張は、米国から多くのものを収奪した結果、獲得したものである。中国の急速な軍備増強の目的のひとつは、米国のアジア地域へのアクセスを制限し、この地域で行動の自由を得ようとするものである」と述べています。ここで使っている「中国の拡大はアメリカからの収奪である」という言葉は、「ゼロサムゲーム」を意味しているのです。二人の当事者の取引においては「ゼロサム」と並び、反対の意味での「ウィンウィン」という言葉があります。取引で両者が得をすれば「ウィンウィン」ということになりますが、トランプ政権に言わせれば中国のやり方は「ウィンウィン」ではなく「ゼロサム」ということなのです
ちなみにトランプ外交の特徴も、実は「ゼロサム」だという見方をする人が多くいます。「勝つか負けるか」のスタンスを保持しているということでしょう。日本のように「とにかく対決は避ける」、「両方がうまくいくように足して2で割る」というやり方、「揉めたら足して2で割ればいい」と言った金丸信という政治家もいましたけれども、トランプは違います。中華人民共和国も違います。アメリカは対中国政策を「ゼロか全てか」というように見ているということ、これが「国家安全保障戦略」からうかがえます。

先ほど申しあげた政策文書の2番目は、2月になって出た「世界規模の脅威」というものです。これはアメリカのすべての情報機関、CIA,NSA国家安全保障局、国防情報局、連邦捜査局FBIなどが集まって、「今、アメリカにとっての脅威は何か」ということをまとめた文書です。これは元上院議員で国家情報長官ダン・コーツという人が中心になってまとめたもので、上院の軍事委員会と情報特別調査委員会の公聴会で発表されました。NSA国家安全保障局というのは、CIAよりも大きな情報組織で、テクニカルな情報収集を行い、潜在敵国の情報を傍受して暗号を解読するとか、人工衛星の偵察結果を分析するとか、いろいろな形で情報分析をしています。

その中で「第2次大戦以降、今ほど戦争の脅威が高まったことはない。大国を含む国家間の衝突の危険は、2018年現在、東西冷戦終結以降最も高くなった」と総括しています。なぜならば「世界の主要国や地域的な侵略性の強い国が、アメリカの対外政策の変化により生じた『複雑な国際潮流』を利用して自国の野望を追求しようとしている」と説明しています。アメリカによる「複雑な国際潮流」というのは、実はオバマ政権の政策を指しています。オバマ政権時代は「とにかく皆で仲良くしよう。穏和でいこう。軍事なんか重要ではない。力の行使なんか考えていません」ということでした。

トランプ大統領の対外戦略の要は「力による平和」ということです。力というのは軍事力のことです。軍事というものから身を遠く置いてきた日本国民にとっては、違和感を覚えるかも知れません。でも、これが現実の世界であり、トランプ政権の現実もまたそうなのです。この「世界規模の脅威」文書において、「中国、ロシアなどは自国の影響力を拡大し、『アメリカの魅力や影響力』を減らそうと意図している」と評価しています。
「アメリカの魅力」という言葉が出てきますが、日本にとってもアメリカはなじみ深い国です、野球の中継などを見ていると特にそう思いますし、映画を見ても音楽を聞いても同じように感じます。世界的にもアメリカの持っているソフト面の魅力というのは大きく価値のあるものですが、アメリカはこの分野においても中国、ロシアの脅威を感じ始めていると思われます。
更に「中国はこの野望の実現のために軍事力を含むあらゆるパワーを使い、国際社会の安定を崩し、『規範に基づく国際秩序』を侵食しようとしている」とも言っています。「規範に基づく国際秩序」、これはアメリカの歴代政権が言ってきたことで、「法の支配 Rule of law」というのは民主主義の基盤ですけれども、世界のどの国にも、どんな人間にも平等に法、規範を適用しようというアメリカの変わらざる基本的な姿勢です。

3番目の政策文書は、今年の1月に出た「核体制の見直し」です。今、アメリカは核兵器について「最悪の場合それを使うかも知れない」という可能性は排除していません。どの政権もその点は同じでした。アメリカは核を使用する場合の規則、手順などを見直す作業を2年に1回、或いは4年に1回ぐらいやっていますが、それをトランプ政権が今行っています。この背景としては、中国、ロシアはともに核戦力を増強してきていますが、アメリカは核戦力をずっと増強していません。むしろ削減してきたわけです。特にオバマ政権時代には随分削減をしていますが、その間に中国、ロシアは核戦力を増やしてきているので、これに対応すべく抑止力を高めていこうということです。

これまで申しあげた3つの文書から、「中国に対する警戒感を強めて強硬に対応する」という印象を持たれるかも知れませんが、これは米中が国交を樹立した1979年から40年近い間、アメリカが採用してきた「関与政策」が効果をあげることなく終末を迎えた末に起きつつあるアメリカ側の重大な変化ということなのです。
アメリカでは議会やその他の場所で、「中国をどう見るか、中国にどう対応するか」という活発な議論が展開されています。連日のように議会の公聴会がありますので、私もある日議会に行き、公聴会を朝からずっと聞いていましたが、議会全体としても「中国は人民解放軍の近代化という名のもとに軍備を増強している」という認識では一致しているといえます。
そしてそこでは、「このままでは、アメリカにとって不利な状況がグローバルな規模で拡がっていく。特に東アジアで起きる可能性が高い」、「中国は軍事力をかつてない規模で増強し続けている。特にロケット、ミサイル、宇宙衛星、サイバーなどの分野において著しい」など、いろいろな議論が展開されています。

ハリー・ハリスという太平洋軍司令官、お母さんは日本人ですが、彼が3月15日のアメリカ議会の軍事委員会で証言して、中国の軍備増強について話しています。そのときの証言はPHP研究所の「VOICE」という雑誌に詳しく書いてありますので、関心のある方はご覧になってください。ハリー・ハリスは最初オーストラリア大使に任命されるということでしたが、急に韓国大使にかわりました。
中国軍が南シナ海で勝手なことを行い、「国際司法裁判所が出した裁定を全く無視してけしからん」と中国にとって耳の痛いことを言っていますので、中国系の新聞から何か言ってくるのではと思っていたら、出てきたのが「お母さんが日本人だから悪い」という人種偏見の論調でした。私が心配なのは彼が韓国大使になり、何か拙いことが起きると韓国のマスコミが「お母さんが日本人だからそういうことを言っている」というようなことですが、そうはならないで欲しいと思います。ただ、そうなるかならないかどちらに賭けますかと聞かれると、私は韓国のマスコミが言うほうに賭けます。(笑)

 

六 トランプ政権下での良好な日米同盟

日米同盟について考えてみたいと思います。アメリカ側から見て、中国と対決をしていくということになれば、どうしても日米同盟が重要になります。日米同盟の重視、或いは日米同盟への依存といってよいかも知れません。
それでは日米同盟の現状はどうかというと、今はかつてないほど良好です。同盟関係というのはもちろん変わりますし、永遠でもありませんが、トランプ政権と安倍政権の間の同盟関係は非常にうまくいっています。首脳同士個人の信頼関係というのは、私は国際関係においてそれほどの比重を置いていませんが、それを割り引いても、トランプと安倍、二人の首脳が相手を信用し合い、「一緒にいると快適だ」といって、安倍さんの言葉にトランプさんが耳を傾けるというのは確かなことのようです。その背景には、オバマ政権時代もそうですけれども、アメリカの日本に対する信頼感、友好感があります。「日本はよい国だ。日本国民は信頼できる」というように、日本に対する善意というのが確実に存在するわけです。特にトランプ政権は好意的です。
日本にとって悲願である「拉致問題解決」に対するトランプ政権の対応は非常に前向きで熱意があります。トランプ大統領が国連の演説で、横田めぐみさんのことに触れています。「やさしい sweet」という言葉を使い、13歳のsweetな少女が自宅の近くから連れ去られて40年間帰ってこないということを言っています。これはトランプ大統領が来日したとき拉致被害者の家族と面談して、心のこもった交流があったのが大きいのですが、拉致問題に長年理解を示してきた人たちがトランプ政権の要所にいることも影響しています。  

大統領補佐官のジョン・ボルトン、強硬派と言われていますけれども、拉致問題に関しては私自身も何回も会いましたが、日本に対して好意、信頼感を強く持っています。彼は北朝鮮がいかに非人道的な国であるかについて言及し「むごたらしい拉致という問題は解決しなければいけない」と、頬を赤く染めて語っていました。
それからもう一人、今、国務省で北朝鮮の宗教の自由問題を担当しているサム・ブラウンバックという人がいます。もしサム・ブラウンバックという名前を知っていたらかなりのアメリカ通です。上院議員を長くやった人で、日本の拉致問題について、議会での取り組みを一番熱心にやってくれた人です。
また、東アジア太平洋担当のランディ・シュライバー国防次官補も日米同盟重視で、拉致問題で非常に前向きなことを言っていますし、中国に対しても厳しい態度で臨んでいます。例えば、安倍首相が靖国神社に参拝したときにオバマ政権が「失望した」というと、これに対してシュライバーは、ブッシュ政権の高官であってオバマ政権ではもちろん在野でしたが、「アメリカ政府が民主的に選ばれた同盟国の行政府の長の行動について、こういうことを言うのはけしからん」と言って、オバマ政権を非難しています。歴史問題についても「中国共産党ほど歴史を蹂躙している存在はない」ということを堂々と公の場で言い続けている人です。その裏返しとして「日本との同盟関係は重要である、自由と民主主義は大切だ」ということを主張しているわけです。
このように今、日米同盟はトランプ政権下においてよい状況にありますが、であればこそ、日本のメディアは「愚か」とか悪口を言って、トランプ大統領自身を貶めることをしなくてもいいのではないかと思います。客観的に見ていけばいいことなのです。

 

七 日米同盟の片務性が「日本の防衛」に及ぼす影響

日本の防衛ということに関しては、懸念となる材料がないわけでは決してありません。いくつか挙げてみたいと思います。一つは、日米同盟の片務性です。これについてはトランプ大統領が選挙中に、非常に雑な言葉ですが分かり易い表現で述べています。「日本がもしどこからか攻撃されたら、アメリカはアメリカ青年の命を犠牲にしても守らなければいけないことになっている。しかし、アメリカが攻撃されても日本は何もしないではないか。日本国民は自分の家にいてソニーのテレビを見ていればいいのだ」と言って、集まった民衆の歓声を浴びています。この言葉に象徴される日米同盟本来の片務性については、アメリカの多くの人がおかしいと思っていますが、ただ、今それを言っても何もプラスにはならないということも分かっています。
その背景にあるのは日本の憲法です。憲法9条が、結果として日本の国権というか主権を制約していて、法的には、日本自身の防衛もやっていいのどうか分からない状態に置かれているのです。アメリカの議会調査局という非常に中立性の高い組織が「日米同盟の強化のためには、日本の憲法9条は障害である」とはっきり言っています。また、「専守防衛」という憲法9条に基づく政策に対する批判というのがいろいろな形で出てきていて、ついこの間傍聴していたアメリカの公聴会でも、女性のオバマ政権の元高官が次のように発言しています。「日本には敵地攻撃能力の構築を含めて、もっと積極的に防衛問題に取り組んでもらった方がいいのではないか。憲法の規制があること、韓国や中国が過剰に反応することは分かっているけれども、東アジア全体としては日本の前向きな取り組みが望ましい」と。

それに関連して前からある議論ですが、「中距離ミサイル」の問題があります。中国は何百何千、北朝鮮も何百という中距離ミサイルを保有し、日本はいずれの国からもミサイルの射程内に入っています。ところが、アメリカは地上配備の中距離ミサイルというのは保有していません。皆さんご記憶があるかも知れませんが、SS-20という、ソ連とアメリカが対立していたときの中距離核ミサイルの全廃条約というのがあって、すべて廃棄してしまったのです。中国も北朝鮮もそのような条約には入っていませんから、彼らはどんどんミサイルを増やしてしまった結果、中距離ミサイルに限っては、東アジアにおいては非常に不均衡な状態が生起しているわけです。これを補うためには、例えばアメリカが日本に中距離ミサイルを配備するとか、それが難しい場合は日本が開発したらどうだということを何度も防衛問題の専門家、超党派の人たちなどが言っています。これは考えなければいけないことだと思います。

最後に「防衛費の問題」があります。トランプ政権は防衛分担の公正化をNATO北大西洋条約機構に求め、ヨーロッパ諸国は政府首脳の段階で「国防費はGDPの2パーセントとする」ということを約束しました。ところが約束が履行されていません。ドイツなどは一番消極的で、トランプは怒っているわけです。もしこの基準を日本に当てはめた場合、日本は1パーセント以下ですので、これは一体どうなのだということになりますが、トランプは「今のところ、日本の場合は特殊なケースであり、特にコメントすることはない。同盟関係はうまくいっているので、それを揺るがすようなことはしない」と言っています。しかし、潜在的なトラブルとしては存在しているわけです。

 

八 「日本の防衛」に対するアメリカの期待

アメリカの日本に対する期待として最後に付け加えますと、アメリカの民主党系リベラル派の間にも「今の日本の防衛のあり方は日米同盟を公正に効率良く運営していく上ではおかしい」という意見があります。ブラット・シャーマンというカリフォルニア州選出の下院議員はある公聴会において、日本の記者だということを知ってのことでしょうが、なかば私の方を見て次のように証言しました。

「トランプ政権がいざというときには日本の尖閣諸島を守ると言ったことはおかしい。なぜなら日本は同盟国として公正な負担を果たしていない、2001年にアメリカは、同時多発テロで一挙に3000人もの犠牲者を出した、同じ同盟国のNATO諸国はこのとき初めて集団自衛権を発動した。タリバン、アルカイダなどのテロ組織に宣戦布告して、実際にアフガニスタンに兵隊を送ったが、日本はこれほどアメリカに守られていながら、このような協力を全くしなかった。そして、言い訳として、日本には守らなければならない憲法があって、そのようなことはできないと言う。では、2001年のテロが起こったとき、日本の政治家で『憲法の制約でアメリカに協力できないのだったら、その憲法を変えようではないか』ということを公の場で発言した政治家が一人でもいたか」と。
今の日米同盟は、アメリカ側から見ると「日本はいいとこ取りで、全部守ってもらうけど自分は何もしない」というふうにみえるようなのです。幸い、今はうまく行っていますが、将来を考えた場合、日米間の憂慮すべき事態が生起する恐れがあることを認識しておく必要があります。
以上で私の話を終わりますが、ご意見があれば承ります。
ご清聴ありがとうございました。

平成三十年五月九日 公益財団法人日本国防協会 国防問題講演会講演録より