「アメリカ新政権下の日米同盟」
川上高司氏(拓殖大学海外事情研究所教授・所長)
平成29年3月

ただ今ご紹介にあずかりました川上です。今日はトランプ政権が発足して1ヶ月位経ちましたので、トランプ政権はどこに向かっているのか、そして、それがどのように日本に影響をもたらすのかということを整理してお話をしていきたいと思います。実は先日、ニューヨークタイムスから「北朝鮮に対してアメリカはどう出るのか」、昨日はロイターから「中国の軍事費増強についてどう思うか」などという電話インタビューを受けました。今は、アメリカ国民もトランプ政権がどこに向かうのか分からない状況ですが、北朝鮮に関しては今ほどアメリカが先制攻撃の機を狙っている時期はないと思います。非常に緊迫度が高まっています。新鋭の航空機を擁する空母を2隻展開し、いつでも北朝鮮に対して攻撃が出来る準備を整えようとしています。その後はトランプ大統領の決断を待つということなのでしょう。

「今しかチャンスはない」、国防長官ジェームズ・マティスの戦略でもあります。北朝鮮がアメリカに到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)並びに潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を開発する前に彼らを叩く必要があるという進言をするに違いありません。ニューヨークタイムスのインタビューに対する私の回答は最右翼に位置し、他の先生方はもう少し楽観的な考え方を述べておられますが、私の友人の将軍たちからは非常に緊張感が高まった話が聞こえてきます。日本ではあまり論議になっていませんが、アメリカではトランプ大統領を筆頭に何名か戦略家が「日本にも核武装させるべきだ」ということを言っています。さらに「先制攻撃のチャンスは中小諸国の場合、彼らが核を持つまでの間までで、一旦持ってしまったら厳しくなる」と考える識者がアメリカには大勢います。特にネオコン、「ネオコンサーバティブ(新保守主義)」、ブッシュ政権のときに多くいましたが、そういう方々がトランプ政権の周りに集まってきてアドバイスをしている節があると言われています。私はこのような兆候は危険だと思っています。

 

一 トランプ政権の出だし ~オバマ政権との違い~

まず、トランプ政権の1ヶ月を追ってみますと、何といってもポピュリズムの傾向が目につきます。古くローマ時代ではシーザーはポピュリストではなかったのかということが学術的に論議されており、日本では橋下さんとか昔の小沢さん、若しくは小池さんがポピュリズムに乗っかって政権をとるかも知れないと言われています。今、世界中でこのような流れになっていますが、この流れを見ていないとアメリカの政策特に対ヨーロッパ政策というものはわかりません。本屋に行きますとトランプの本が山積みになっており、私も遅ればせながら仲間たちとトランプ政権についての本を東洋経済社から出版する予定ですが、そこでの論点は単なる話題性だけではなく、もう少し大きく見て思想的な流れも捉えていかなければいけないと考えています。そのようなことも踏まえて今日は「トランプの価値観は」、「トランプの安全保障政策とは」、そして「日米同盟はどうなるのか」、その結果「日本の活路はどのようにして切り拓くのか」などについてお話をしていきたいと思います。

トランプは自分の著作の中で、「最後は自分自身の直感で決める」、「自分は取引を楽しみながら、判断にあたってはその時の状況を見て自ら決定する」ということを言っていますが、実際彼が出した大統領令などを見てみますと、確かにそうなのかなという感じがしてきます。よく「一寸先は闇」といわれますが、それでも今日はトランプ問題についてできるだけ読み解いていきたいと思っています。
トランプ政権の1ヶ月間に行われた会談や大統領令などはオバマ政権と一体どう違うのでしょうか。日米同盟については先日、マティス国防長官が日本に来て日米安全保障条約の第5条を適用する旨を表明し、日米安全保障条約の重要性を訴えました。その後、安倍総理がワシントンに飛んで日米首脳会談を行い、一見何かすごいことをやったような感じがしましたが、中身を開けてみたらほとんどオバマ政権の時と変わらない内容です。

しかし、トランプは北朝鮮に対しては先制攻撃をもって戦術核のボタンを押すかも知れません。また昨年の暮、アメリカは西海岸で「バンカーバスター(地中貫通爆弾)」の実験を行いました。バンカーバスターというのは50メートルから100メートル位の地下深くに撃ち込んで爆発させるものです。北朝鮮の地下深くにあるトンネルもその威力でかなり吹き飛ばせるのではないかと言われています。アメリカでは随分前から国防戦略に組み込まれ、私が防衛研究所にいる時ですから、10年前のブッシュ政権のときから実験を重ねてきています。
トランプ大統領は昨年の大統領選挙で勝利をした後、台湾の蔡英文総統と電話会談を行い、イギリスのメイ首相と会い、安倍総理と会談をしました。また、今後のヨーロッパの動きも注目点です。ニューズウィーク、フォーリンアフェアーズなどの雑誌でポピュリストの特集をしていますが、3月にはオランダで総選挙があり極右政党の党首が選ばれるかも知れません。4月から5月にかけてはフランスに極右のルペン党首が出てくるかも知れません。9月にはドイツ総選挙でメルケル首相が苦戦を強いられるかも知れないというように、もしかするとトランプのような最右翼の大統領が次々に現れてヨーロッパは一気に変わり、EUは崩壊するかも知れないという状況に今なっているわけです。

振り返ってみますと、トランプは権力を一部のエリート支配層から「忘れられた白人達」へ取り戻すことに焦点をあてて大統領選挙を勝ち取ったわけです。「1パーセント問題」とよく言われます。「世界の1パーセントの富裕層が世界全体の富の約半分を占めている」という問題ですが、アメリカにおいても上位10パーセントの人たちで所得は国民全体の50パーセント、資産は70パーセントを占めていると言われています。そこに彼らの不満があります。

 

二 アメリカを覆うポピュリズム

アメリカのポピュリズムについては、第7代大統領のアンドリュー・ジャクソンの時代に、トゥクビルというフランスの政治思想家がアメリカを旅行して「アメリカンデモクラシー」という本を書いています。ジャクソンは白人貧困層のパワーを結集して大統領になり、彼らに参政権を与えて、いわゆる「ジャクソニアンデモクラシー」をつくり上げた人物ですが、これに対して、トゥクビルは「このような動きは、独裁者若しくは専制政治が現れる兆しである」と著書の中で述べています。アメリカの民主制について150年以上も前にトゥクビルはその危険性を予見しているのです。
トランプ政権を語るキーワードも結局はポピュリズムにあるという感じがしていますが、その大きな要因として難民・移民問題があります。アメリカでは雇用環境は好転していますが欧州では失業率が高まっています。特にシリア情勢が不安定のため中東から大量の難民が国外に流出し、世界中では6、500万人の難民がいると言われています。移民は世界で2億5、000万人位、欧州には7、600万人位の移民がいて、欧州諸国の人たちが「もうこれ以上は無理だ」と思い始めたところにテロが起こりました。2015年11月のフランス同時多発テロですが、中東から流れ込んだ難民の中にテロリストが混じっていてテロを起こしました。日本も他人ごとではなくて、2020年に開催される東京オリンピックにおいてテロリストが混じってテロを起こす可能性も十分にあります。このような不安が今世界中に漂ってきていると思います。

このような兆しはアメリカの大統領選挙においてすでに表れていました。CNN報道の選挙結果によりますと「移民に対して何とかしてくれ」という人たちの64パーセントはトランプ支持です。トランプが提唱した「メキシコ国境に壁を造る」という話に期待する人は本当に多いのです。一方、クリントン候補の方は32パーセントしかありませんでした。日本では理不尽に思えるかも知れませんが、イスラム諸国からの一時難民若しくはイスラム国の国籍を持っている人たちのアメリカへの入国禁止というのはこのような64パーセントのトランプ支持者に応えたものなのです。そこのところを大きく見誤ってはいけないと思います。しかし、メキシコ国境に壁を造るためにはお金が必要になりますので、アメリカ議会の上院・下院での立法措置が必要になります。今トランプは「忘れられた白人達」の支持者に焦点を合わせて、選挙期間中に言ってきたことについて、いわば手形を落としている状況にあると思われます。

最近は、ツイッター、フェイスブック、ラインなどのSNSによるコミュニケーション手段が大きなウェイトを占めてきています。ポピュリストの色彩の強い政権指導者、独裁者は「これからはもうマスコミは要らない」と思っています。トランプ大統領は、ワシントンポスト、ニューヨークタイムス、CNNなどを会見場から締め出して「お前たちは要らない」、「俺は直接ツイッターで囁くのだ」とまるで喧嘩を売っています。なぜ喧嘩を売っているかというと、「忘れられた白人達」からみると「マスコミ=(イコール)エリート」というイメージがありますので、マスコミを叩くということは自分を応援してくれる人たちの喝采を得るということなのです。一見無茶なことをしているようですが、トランプの頭の中ではまさに理にかなっているわけです。したがって、このようなマスコミ対応はトランプが大統領である間は続くのではないかと思われます。マスコミの方はマスコミの方で大変です。いわば、自分たちの職を奪われるわけですから必死になってトランプと対抗していくでしょう。

アメリカの人口問題を見てみますと、白人は人口の70パーセント、黒人が10パーセント、ヒスパニックが10パーセント、残りがアジア系やネイティブアメリカンとなっていますが、白人有権者の多くはトランプを支持しています。最近、白人の45歳から54歳の人たちの死亡率が高くなってきていますので、これから先2050年位には白人層が少なくなって、黒人、ヒスパニック、アジア系の人たちが多くなりアメリカ社会が変わってしまいますので、それに対して危機感を感じた白人たちが今回の大統領選挙でトランプを支持したということです。白人の女性票も42パーセントを獲得しています。有権者の比率からみて白人票を多く取ったものが勝ちでしたが、トランプはその大多数を取ったということで、クリントンの選挙戦術の失敗だったということも言えると思います。言い換えると白人至上主義が復活したということかも知れません。「ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント(WASP)」、いわゆる白人でアングロサクソン(イギリス)系、そして宗教がプロテスタントというような社会、いわば1980年の社会に後戻りしてしまったといえるかも知れません。私は大統領選挙前にアメリカに行ってきましたが、その時、何か殺伐としたものを感じました。いつもですと、トランプグッズとかクリントングッズを買って、たとえば「トランプの帽子」をかぶって気軽に歩くのですが、「そのようなことをすれば殴られるから止めておけ」と友人から言われるぐらいでした。近いうちまた訪米しようと思っていますが、前回よりももっと殺伐しているのではないかと思われます。

アメリカでは政権交代にともない、ホワイトハウス、国務省、国防総省、CIAなど国の機関において約4、100人のポストが入れ替わります。「ポリティカル・アポインティ(政治任用)」という制度です。4、100の人を新しい大統領が任命するのですが、現在それらのポストはまだ十分に埋まっていません。これには2つの理由がありまして、1つには、本来ならば新しく共和党の大統領になったわけですから多くのポストには待ちに待ったシンクタンクの連中が就くのですが、このような人たちはエリートで「ベスト・アンド・ブライテスト(最良の最も聡明な人々)」ですので、彼らが「トランプ大統領になっても政権運営を担うのは拒否する」という血判状を回して政権参加を拒否しているのです。トランプの方も「そのようなエリートたちを自分の部下にはできないよ」といって対抗しています。したがって、今のホワイトハウスやアメリカの行政機関は今までと違い十分に機能していません。

また宗教右派が台頭してきています。大統領選挙の有権者の70パーセントがプロテスタント、カトリック、モルモン教などのキリスト教ですが、それらのほとんどの票がトランプの方に流れたと言われています。ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントの世界が戻ってきたわけです。古き良きアメリカ、いうならばブッシュ時代を牛耳っていたネオコンたちが再び現れてきたというようなところです。私は防衛研究所に在職中はアメリカを担当していて、アメリカの国防戦略やそれを裏付ける軍事予算措置などをずっと見てきましたが、どちらかといえばオバマの時の8年間が異常だったのであり、極左政権がオバマで、極右とはいわないまでもトランプ政権は昔のレーガン・ブッシュ時代に近いという印象を持っています。したがって、トランプ大統領の出現はそれほど驚くことではありません。しかし、最終決定者のトランプ大統領は政治的な経験もなくワシントンのこともよく知らず、またレーガンやブッシュと違い、民主主義が重要だとか、神を信じるとかというのも全くありません。今まで我われが見てきたアメリカ大統領のような基準で物ごとを判断するのではないということが推測されます。北朝鮮を先制攻撃するかも知れないし、中国とは逆に取引をして米中関係がかえってよくなり、米ロ中の三国協商ができあがるかもしれません。我われはトランプ大統領の出現とともに先入観念をなくし、頭を真っさらにして考えなくてはいけない時代に突入したわけです。

現在見られるアメリカ国内の分裂は、今後4年間は間違いなく続くと思われます。今も大統領令が出るたびにアメリカ中でデモが起きていますし、トランプが大統領に選ばれた時にカルフォルニアでは独立しようとする動きまでありました。今後の進展はワシントンのエスタブリッシュメントたち、いわゆる非常に頭のいい人たちがどこまでトランプに協力するかによりますがあまり期待はできません。ハリッウドやマスコミの人たちは「ノー」と言っています。私の友人などは「これ以上分裂が拡がると将来アメリカは、南北戦争のときのように本当に荒れてしまう。」と言っています。
一方、経営者の人たちからは、トランプはレーガノミックス、つまり1980年代に景気を良くしたレーガン大統領のやり方を踏襲すると見られています。インフラ投資であり、減税であり、それから軍拡ということになります。そうなると、アメリカの経済はバブルの様相を帯びて一面明るくなるということも言われますが、もう少し見ていかないとこれはわかりません。しかしこの間、世界の情勢は待ったをしてはくれません。朝鮮半島で戦争が始まるか若しくは北朝鮮が崩壊したり、米中関係が悪化したり逆に進展したり、さらに米ロ関係で進展をみたり、いろいろなことが考えられますのでこれからのトランプの一挙手一投足は片時も見逃さないようにしなければなりません。

 

三 トランプの価値観

トランプの行動が注目されていますが、彼の価値観について述べると「損得勘定で物ごとを考えていく」ということでしょうか。いわゆる「アメリカファースト」です。私がアメリカ留学から帰ってきたとき、中曽根さんが総理大臣を辞めて世界平和研究所という財団法人をつくり私も研究員として活動いたしました。世界平和研究所は優れた研究活動を行い、満鉄出身の佐伯喜一先生、日銀出身の中川幸次先生、そして政治家の竹下、後藤田の両氏と、少なくとも1週間に一度は皆さんお集まりになっていましたが、その時にアメリカで彗星のごとく現れたのがトランプでした。当時ニューヨークにトランプタワーを建てて富の象徴を誇っていたわけですが、彼は「ジ・アート・オブ・ディール(取引の美学)」という本を書いていて、その中で「取引が全て。ギャンブルは好き。大きな取引に価値を見出す」などと広言しています。私はトランプを「結論のみではなく、今行っているディールに対してより喜びを感じる」という人ではないかと思っています。そうすると「ビッグディール」とは何かということになりますが、私は中国のことだと思います。中国との間で「戦争も厭わないと見せながら、どこまで中国を妥協させることができるのか」というディールではないでしょうか。中東関係も同じように「どのくらいイランと取引ができるのか」でディールし、できなければイランとの核合意を見直して、イスラエルにイランに対して先制攻撃をさせるということもあり得るでしょう。ロシアとのディールについては画期的な関係の進展もあり得ます。

 

四 トランプ政権の人たち

トランプが考える美学とは「ルールを破ること」とも言えるのではないでしょうか。トランプが行った人事ですが、私は「3G+JR」と言っています。3Gというのは将軍(ジェネラル)、億万長者、ゴールドマンサックスの人たちのことですが、ムニューチン財務長官の他、国家安全保障会議(NSC)などいろいろなところに入っています。バノン首席戦略官・上級顧問もゴールドマンサックスの出身です。それからJRですが「ジュ―(ユダヤ人)」と「ロシアン」がキーワードで、彼らはトランプが切っても切れない人脈だと思います。「J」については娘のイヴァンカの夫のクシュナーがユダヤ人でして、彼と結婚するためにイヴァンカはユダヤ教に改宗して「ヤエル」という名前を選びました。彼女はユダヤ教への厚い信仰を持ちダビデの星を背負っています。うがった見方をしますと娘がユダヤ、イスラエルに人質に取られているわけです。クシュナーは正式に顧問になりホワイトハウスに入りました。

「R」はロシアですが、ティラーソン国務長官や、この前首を切られましたがフリン前国家安全保障担当補佐官を見てもわかるようにロシアとの結びつきは非常に強いものがあります。その他、ヨーロッパの情報機関が血眼になってトランプとロシアの関係を探っています。いろいろなことが言われていますが決定的な証拠は見つかっていません。一部紹介しますと、トランプは1980年代に会社を倒産させています。そこから這い上がったわけですが、そのとき資金を提供したのがユダヤ・ロシア系の金融機関ではなかったのかということが言われていますが確証はありません。いずれにしましても、大統領選でロシアはアメリカにサイバーアタックを仕掛け、クリントン候補陣営にハッキングして情報をリークした可能性があるわけですから、ロシアが後ろに付いているというのは信憑性があります。

トランプのインナーサークル、最もトランプ大統領に近いサークルが重要です。トランプ政権ではおそらくトランプが全部を決めていくのでしょう。従来のように閣僚の力量を量り、その人脈を読みながらトランプ政権を分析しようとしても正確な分析はできないと思います。最終的にはトランプの人柄、弱みとか癖、人脈などを読まなくてはいけないと思います。その時に影響力を及ぼすのがさきほど述べましたユダヤとロシアではないかと思います。インナーサークルについてもう少し言えば、トランプの娘イヴァンカはきれいなモデルで才女でもありトランプオーガナイゼーション副社長を務めています。頭が良くジョージタウン大学の後にペンシルベニア大学ウォートンスクールを優等で卒業しています。それからイヴァンカの夫クシュナーですが、彼のお父さんはニューヨークのユダヤ人社会の元締めをしています。例のユダヤ人のキッシンジャーを連れてきてトランプに会わせています。その後、キッシンジャーは確か90歳ぐらいだと思いますが中国に飛んだりして忍者外交で頑張っています。安倍・トランプ会談もクシュナーが間に入ってからうまく回りだしたと聞いています。

最近のアメリカの雑誌、新聞を見ますと「バノン首席戦略官がトランプを操っている」、「バノンが全部やっているのだ」などというようなことが言われています。確かにホワイトハウスでの写真を見ると、たとえばトランプがデスクに座っていて、その前にバノンが座り、横にクシュナーが立っているというような親密さを表す写真が多く見られます。スチーブン・バノンというのは極右です。彼が会長をしていた「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」はユダヤ系からお金が出ている保守系ニュースサイトで、非常に過激なことを叫び続けている機関紙で、ニューヨークタイムス、ワシントンポスト、フォックスニュースなどが全て反トランプを打ち出した時、バノンだけがトランプを擁護して大統領まで持ち上げたという実績があります。「中東からの移民禁止令」、「メキシコの国境の壁」とかは全てバノンの考えたもので、それらの戦略を練り大統領令としてトランプにサインをさせていると言われています。

今、安全保障の重要な問題はほとんどトランプ、バノン、クシュナーの間で決められていると言われており、国家安全保障会議(NSC)が健全に機能しているのかということが問題です。NSCはアメリカで最も重要な会議といわれており、国務長官、国防長官、財務長官などがメンバーですが、ここにバノンが入り統合参謀本部議長、CIA長官などは格下げされています。ただ共和党のパイプになっているペンス副大統領が入っています。私は実はトランプ大統領の任期は2年くらいしかないのではないかと思っています。理由は3つありまして、1つにはとにかくこんなハチャメチャなことをしていて彼の支持層がついていくかどうかです。白人中低所得層の人たちに今後、お金を本当に回すことができるのかと思います。彼らはトランプに期待して投票したわけですが、これからやろうとしている経済政策で彼らが満足するかというと疑問です。実は選挙中にトランプが彼らに約束したことは他にもたくさんあり、35個ぐらいの政策を約束しているのですがそれらが本当に実現できるのかなと思います。2年経つと馬脚が現れてくるのではないでしょうか。2つ目に彼は、会社は息子、親族に譲っていますが株を持っており、彼がツイッターで一言叫んだ途端に株が上がりますのでこの2年の間に相当儲けることができるわけです。ですからある程度儲けて馬脚が出る前に辞めるというシナリオです。3番目になりますが世界情勢はかなり悪くなっていくと思います。ですから「2年でいい」と言ってトランプが投げ出し、後の責任は副大統領のペンスに任せるというシナリオです。あるシンクタンクはペンスに焦点をあててペンス研究をやっているところもありますので、ペンスはそういう意味でも重要な人物だと思われます。ただし2年後に、ペンスが大統領になったとしても恐らくそんなに変わりはないのではないかと推測されます。ペンスは極右で宗教はエバンジェリカル、ティーパーティ運動にも参加している人ですが、トランプが下院議長のポール・ライアンと喧嘩をしていましたので議会とのつなぎ役として副大統領に選ばれたわけです。今後、トランプ政権は次々と立法措置をしていかなくてはなりませんので、議会対策はペンスに任せるということで彼が重要になってくるわけです。

首席補佐官のプリバースは日本でいいますと政策秘書とか第一秘書にあたるのですが、さきほども言いましたようにバノン、クシュナーが実権を握っていますので今はほとんど力がありません。しかし、プリバースは政権の中では非常に「まとも」と言われていて、アメリカ下院議長のポール・ライアンとも近い関係にもあるので彼もこれから先にもある程度の役割を果たすと思われます。フリンの後任の安全保障担当補佐官には対ロ強硬派のマクマスター陸軍中将が就きました。マティス国防長官は海兵隊、マクマスターは陸軍で、トランプ政権では陸軍と海兵隊が5人になります。それまでのブッシュ政権、オバマ政権では空軍と海軍が多かったのですが、今回の様変わりで戦略もおそらく変わってくるはずで、エアーシーバトル戦略も書き直されて今度は陸軍と海兵隊中心の国防戦略が出てくるという気がしないでもありません。マティスはがちがちの海兵隊ですが非常に信用されています。トランプが軍事のことはあまりわかりませんので、マティスは自分自身の描いた戦略に基づいて朝鮮半島、ロシア、中東のことを考えているのでしょう。軍人的な考え方でいくと多分、北朝鮮に対して二者択一を迫りながら譲歩を求めていくと思いますが、最終的にはトランプの決定には必ず従っていくでしょう。

それから、国土安全保障長官のケリーも海兵隊です。今回のメキシコ国境の壁、イスラム教徒の入国禁止は彼が担当します。それから、強硬派のポンペオCIA長官、セッションズ司法長官などがいますが、注目しなくてはいけないのはゴールドマンサックスグループであり、特にムニューチン財務長官で彼が財布の紐を握っています。今後の法人税引き下げにも重要な役割を担います。それから、ウィルバー・ロス商務長官、彼が中国との通商関係をまとめていくことになります。新しくできた国家通商会議議長のピーター・ナバロは中国との貿易戦争に関する本を書いているように対中強行派ですが、商務長官と一緒になって中国と交渉することになります。
国家安全保障会議では外交政策が論議されますが、その裏の方では株とか商取引が中心になると思われます。トランプ政権の外交政策は外交だけではなくて株取引・金融政策、エネルギー政策などがポイントになるでしょう。トランプ政権が軍拡をすることはほぼ間違いないところですので政権の前半の2年から3年は軍事関連予算も増大し、ロッキード・マーチンなどの軍事産業は儲かりますし、それに呼応する日本の会社も潤うでしょう。ワシントンのシンクタンク、なかでもトランプと近いヘリテージ財団やAEIなどの共和党系のシンクタンクにも資金が提供されて活気に溢れると思います。しかし、景気が良くなった後はレーガノミックスの時のように、4乃至5年後に双子の赤字が生まれて経済が低下していくという予測ができます。

 

五 トランプ政権の人たち

次にトランプ外交の特色を見ていきます。最初は今年1月20日に行われた就任演説です。ワシントンの連邦議会議事堂前のナショナルモールで行われましたが、オバマのときと比べると半分にも満たないぐらいの人しか集まりませんでしたが、非常に驚いたのはそこに集まった人たちは全部白人でした。オバマの場合は黒か黄色の有色人種が多かったのですが今回はほとんど白人です。トランプは彼らに向かって演説したことを今大統領令でもって実行しているということです。就任演説のときから言っていた「ぶれない政治」を展開しているわけです。たとえば「テロの根絶」、「アメリカのものを買う」、「アメリカ人を雇う」、「壁を造ってアメリカを守る」とかです。愛国主義を訴えるという内容は変わっていません。

それから1ヶ月位経った2月28日に施政方針演説をしました。これは重要な演説でこれから4年間の大統領の指針を示す演説ですが、印象はといいますと非常に控えめな感じを持ちました。就任演説はトランプらしく、共和党議員、民主党議員を前にして「君たちから権力を取り上げて、そこに来ている白人の皆さんに権力を取り戻した」とチャレンジングなことを言ったわけですが、それと比べると今回の場合は、そのような口調はトーンダウンしてまともな演説になっていました。その理由というのは議会との蜜月期間の100日が過ぎ、今後議会と折衝をしながら立法措置をしなければなりませんので議会対策のためというように思われます。内容は「オバマケアを止める」、「NATOの支持を約束する」などの他、「ロシアとの関係を改善する」ということをここでも言っています。トランプ政権が始まる直前には「ロシアとアメリカは戦争をするのではないか」と言われていたぐらい関係が非常に悪化していましたが、トランプが大統領になった途端に真逆に舵を切りました。それでは、本当にロシアとの関係が改善できるのかということですが、その後、ロシア大使との密談をやったフリンも首を切られましたし、現在クシュナーまでやっていたのではないかと疑惑が出ているのでどうなるのかわかりません。しかし、ここで敢えてロシアとの改善に言及したトランプの決意は堅いと思われます。

外交スタイルを見ると、トランプをはじめとしてクシュナー、イヴァンカ、バノンなどのインナーサークルで決めて、閣僚との政策調整はほとんどできていない状況が続いています。閣僚が勝手に話したことをトランプが打ち消し、そのトランプの発言を閣僚がまた打ち消すというように何となくギクシャクしたところが見えます。外交についてはロシアとの関係改善が基本になります。米ロ関係が進展すれば、これまでの冷戦後の大統領がやってきた政策と真逆な政策になります。たとえば軍縮が限りなく可能になります。核のない世界が現れます。それから、紛争もかなり解決されるようになります。NATOは解消されヨーロッパはロシアの影響下に入ります。そこに中国が加わり、米中ロが世界を牛耳るという、これは良い話か悪い話かわかりませんがそのようになる可能性があります。
ウォーター・ミードというアメリカの政治学者が自著の中でアメリカ外交の4つのパターンを紹介しています。非常にわかりやすいので簡単に紹介します。「ウィルソン主義」というのは「世界の警察官」ということです。「ジェファーソン主義」というのは「世界の警察官を止めて一国平和主義で行こう」ということです。アメリカファーストです。「ジャクソン主義」は「力を至上」とする息子の方のブッシュ大統領です。「ハミルトン主義」は「アメリカは戦争をなるべくしないで冷静に対処して利益を取っていこう」という父ブッシュ大統領などの考え方です。

冷戦後のアメリカにおいてクリントン元大統領は「ウィルソン主義」で中国と仲良くしました。中国に人・物・金を与えれば、中国は民主化されてやがて世界平和が訪れるという明るい考え方です。いわばアメリカ人らしい考え方です。オバマ前大統領はウィルソン、ジャクソン、ハミルトン、ジェファーソンの要素を併せ持っていましたが、トランプの場合は何でもありですが「ウィルソン主義」だけはありません。世界の警察官を辞めて何でもありの外交スタイルになることは間違いないと思います。

これから後半の話に入っていく前に今までのところをまとめてみます。トランプは就任前に行動計画というものを出し、100日以内に立法措置を行うといって35ぐらいの公約を掲げました。就任初日から大統領令を出し、すでにそのうちの大半の立法措置を行っています。たとえば「非合法の移民の国外退去」、「オバマ大統領令、オバマケアの撤廃」、「メキシコ国境の壁」、「TPPからの離脱」などを出しました。トランプを支えている中間所得層の白人はトランプのことを本当に有言実行の大統領でさすがと思っているのでしょう。不評だったのは「中東諸国7ヶ国からの移民を一時停止する」という大統領令でしたが、連邦裁判所から訴えられて大統領令を覆されました。最高裁まで持っていくと時間がかかるので取り下げましたが、新たに「中東・アフリカの一部の国からの入国制限令」を出しました。これに対して裁判所が再び違憲という判断を出すかも知れませんが、そのときは多分、トランプは別の大統領令を準備すると思います。「いたちごっこ」というか、沖縄の日本政府に対するやり方を見ているような感じがします。

大統領令は合衆国憲法第2章第1条「執行権」に根拠を有する行政命令ですが、これまで1万3000件を超えています。ルーズベルトの時には第2次世界大戦中でありましたので多くなり3522件を出しています。オバマは170件ほどです。トランプは今のところそんなに出していませんが、目立つのはとにかく奇抜なものを次から次と出していることです。そして「メキシコ国境の壁」とか「移民制限」とかいった大統領令を出すにつれてアメリカ中でデモが起こっています。このように、考えられないことをするわけですからアメリカは今分断に向かっていると言われるわけです。
ただし、大統領令が無効になるケースが3つあります。1つは最高裁判所が最終的に違憲という判決をくだす場合です。最高裁判所の判事の定員は9名ですが今は1人空席で、大統領令の判断については賛否が4対4というところです。今までその空席の判事を誰にするのかという論議がなされていましたが、トランプはゴーサッチという共和党系の連邦控訴裁判事を指名して議会で承認されました。したがってこれからは、最高裁まで上がった場合には共和党系の判事が優勢になりますので、大統領令が覆されることはなくなると思われますが時間がかかるという点は変わりません。
2つ目は立法措置になります。議会が結論を出すわけですがこの場合も時間がかかります。大統領令というのは大統領が持つ専制権、独裁者としての武器ともいえるわけで、それを次から次へと出していますので、対抗できるのは議会ということになります。
3つ目は一度出した大統領令を自ら取り下げる場合です。移民制限に関する大統領令などがそれに当たります。

 

六 トランプの外交・安全保障政策の基本

トランプの外交安全保障政策について見ていきたいと思いますが、実はこれがなかなかわからないというのが正直なところです。おそらく今後もどうなるかというのは直前までわからないでしょう。困ったことではありますが我われは、4年間はこのようなアメリカと付き合っていかなければなりません。今トランプがやろうとしていることは「大幅減税」、「インフラ投資」などですが、この結果バブルが到来し土地も高騰して株も上がります。軍拡も良くわからないところもありますが、多分予算措置をしてくるのでしょう。そこで、何のために軍拡をするのかということが問題になります。敵がいないのに軍拡しても仕方がありません。アメリカは建国以来やってきたことですが敵をつくってきます。たとえば冷戦が終わってソ連が崩壊するとイラクと北朝鮮を敵にして「ならず者国家」という敵をつくりました。それでは現在敵はどこにいるのでしょうか。今回の場合、ロシアは味方になろうとしていますから敵にはなりません。中国を敵にするのでしょうか。それともIS掃討作戦をやるのでしょうか。IS掃討作戦をやる場合には、ロシアとの協調が必要になります。中東で掃討作戦をやるとしたらアメリカは地上軍を送らなくてはなりませんが、国民はそれに耐えられるのでしょうか。北朝鮮を対象にする場合、以前は5027作戦計画というのがありましたが、それがバージョンアップして「斬首作戦」即ち金正恩の首だけを取るというものもあります。しかし今考えられているのはおそらく北朝鮮の全部のターゲットを狙って破壊するのは不可能ですので、主要な施設を攻撃したらさっと引き上げて後は中国に任せるのではないかと思います。よくわかりませんが金正男の息子を使って傀儡政権を建てるということも考えられます。いろいろなシュミュレーションが必要になりますが、アメリカは、10以上のオペレーションプランを持っていますので磐石な態勢で臨んでくると思われます。

結局は、中国がカギを握っていると私は思いますが、トランプは「取引の美学」を大切にしていて、大きな取引をするところにスリルを感じて価値観を見出すと言っていますので、そうするとかつてルーズベルトが「大きな棍棒を持って静かに話したこと」とは違って「大きな声を出し合いながら大きな棍棒を振り回す」というやり方も考えられます。「北朝鮮を攻撃するぞ」と言いながらディールを行い中国から何らかの譲歩を引き出すのでしょう。そうしたら成り行きによっては中国の仲立ちで北朝鮮とのディールが進展し、アメリカと北朝鮮の国交回復というシナリオもあり得るかも知れません。今回の場合はアメリカの国防総省の人たちが考えてきたようなオペレーションプランとは全く逆になることもあると思います。攻撃が始まったら後戻りはできませんが直前までわからないのではないでしょうか。アメリカの外交安全保障政策の基本的な課題は「米ロ環境は進展するのか」、「米中は衝突するのか、若しくは取引をするのか」、「イランとの核合意は破棄するのか」と、突き詰めるとこの3点かなと私は思っています。

 

七 トランプの対ロシア政策 ~ロシア・プーチンとの蜜月か~

さてここで地域別分析に入っていきたいと思いますが、本当に米ロ接近は可能なのでしょうか。トランプは就任演説でロシアとの接近に言及し、ティラーソン、クシュナーをこの問題に引き入れ、一方では信頼してきたフリンの首も切らなければなりませんでしたが、そのような状況で本当に米ロ接近が可能なのかということです。接近するとすればどのくらいの時間がかかるのでしょうか。2年から3年はかかるかも知れません。または国防総省に押し切られてロシアと戦争までは行かなくても危機が高まるかも知れません。いろいろなことが言えます。フリン補佐官の辞任は「米ロ接近に影響するか」ということですが、政治面では別にして経済学者の一部からは「経済的には影響しない」という分析があります。大統領選に勝った人が大統領としてスタートする前に、大統領になってからの政策について根回しをするために民間人をロシアの大使と接触させたわけです。フリンという人はもともとアメリカ国防情報局(DIA)の長官ですので、自分が電話していることは全部DIAなどに盗聴されているのはわかっています。それでも電話を使用したのは大丈夫という自信があったと思いますがそこのところはわかりません。ただオバマ前大統領はDIAに命令を出して盗聴をさせていたわけです。結果として敵国ロシアに対してそのようなことをするのはけしからんという雰囲気になり、フリン補佐官にロシア大使と接触させたのはトランプの命令ではなかったのかということでトランプは窮地に立ち、フリンを首にせざるを得ませんでした。最近はクシュナーも関与していたのではないかということでクシュナーの首も切らざるを得なくなるかも知れません。
このような問題を抱えながらトランプ側としては最近、オバマ前大統領を非難することを始めています。おそらくバノンのアイデアだと思われます。トランプも選挙で国民に選ばれた大統領が出す大統領令が、たとえ政権が変わったからといって本当にこのように不当として非難されるのかという疑問を持っているはずですので、「オバマこそ不当なことをしていたのではないか」というように非難することに切り替えました。

NATOへの「てこ入れ」は変わりません。国防長官はNATOとの関係は変わらないと言っています。5月にトランプがNATOに行きますが、NATOにてこ入れするとロシアが敵になりますので本当にやるのかなという感じもします。また核兵器のバージョンアップもしました。今核の貯蔵に関しては、サイロなどにかなりガタがきていますのでバージョンアップが必要になっています。このような動きは普通であれば「ロシアと核で対峙するのか」という具合にとられてもおかしくありません。なかなか読みにくいところですが結論的に言うと、トランプは一見、ロシア、中国に対して強い態度で臨むように見せますが、本心では米ロ接近であり米中接近にあるのではないかと思っています。アメリカの官僚レベル、CIA、DIA、FBIなどすべて、「ロシアは敵だ」、「何としてもトランプにロシア接近をやらしたくない」というように思えます。トランプがロシアと接近したいということは明らかなので、ティラーソンが議会から国務長官として承認されてロシアのラブロフ外相と会談を始め、公のパイプができましたので今後の進展につながっていくと思われます。ロシアは自分たちが押した候補がアメリカの大統領になったというように思っています。ロシアの下院でトランプが大統領になった瞬間、全員総立ちで嵐のような拍手が沸き起こったというのは有名な話です。トランプもそれに応えてロシアとの緊張緩和のため、ウクライナ問題に対する制裁緩和を解除することは大統領令でもってできますので、今はできませんがそのうちにやるかも知れません。しかしさきほど言いましたように、議会や国民に対して自分は対ロ強行を貫くのだというようなことを言わないと、自分の足元が危うくなり議会との関係もうまくいかなくなりますので、官僚についてはマティス、マクマスターなどの対ロ強硬派を任命しているということだと思います。

 

八 トランプの対中東、対EU政策 ~イランとの核合意、NATOのゆくえ~

次に中東を見てみますと、トランプはイスラエルのネタニヤフと電話会談を行っていますが、イランとの核合意の破棄については本当にやろうとしているのでしょうか、また本当にできるのでしょうか。ちょうど3年前にイランのテヘランに日本の外務大臣と一緒の時期にいまして、イランの外務省やシンクタンクを回ってブリーフィングをしていました。その時オバマが「シリアが化学兵器を破棄するので、アメリカは先制攻撃を止める」と発言してシリアへの先制攻撃は行われませんでした。この件に関してたまたまイラン大使とお会いしましたら、彼は「アメリカは核合意を絶対に破棄しない」と自信を持っていました。理由は3つあります。1つはイランにある基地をロシアに貸していてそこにはロシア人が駐在しています。これではイスラエルも攻撃はできません。2つ目はアメリカからボーイング社の飛行機を購入する予定があり、何かあれば経済問題に発展しますのでイスラエルも慎重にならざるを得ません。3つ目に核合意は主要6カ国との間でまとめた合意なのでアメリカだけでは破棄はできないということでした。なるほどと思いトランプ政権の1ヶ月を見ていましたが確かにイランに対しては何も言っていません。じっと様子を見ているというような感じがします。
IS掃討作戦について初めのうちは「シリアのアサド政権を取り除き、新しい政権を建てた後にロシアとアメリカが協力してIS掃討作戦を行う」ということであれば、アメリカも協力するという話だったと思っていましたが、今はそうではなくアサド政権は残しながらIS掃討作戦を実行していくというような感じになっています。

ヨーロッパ状勢もよく読めません。トランプ政権の国防長官、国務長官がヨーロッパを訪問しNATOについては現状維持ということを言っています。EUに対してもこれまでの関係を維持していくと言っています。ところがロシアと接近するとなると、先ほどから言っているようにNATOは要らなくなります。したがって2年、3年先を見た場合に本当にEU、NATOとの間で現状を維持するのかなと思います。ロシアと接近したらおそらくNATOはいずれ崩壊する方向へ向かうのではないのかなという感じがします。
今後、フランス、オランダ、ドイツなどにもしもポピュリズム政権が誕生した場合には、ブレグジットみたいな感じで一抜けた、二抜けたというようにEUは崩壊していくでしょう。そうするとNATOも存続していくかどうかということになります。いずれにしても、トランプ政権の閣僚たちがNATOに行って口を揃えて言っているのが、NATO諸国は防衛費をGDPの2パーセントまで増額しろということです。NATOの防衛費の半分以上、3分の2くらいでしょうか、それはアメリカが負担しています。そして、それに応じなかった場合の懲罰がどうなるのかが気になりますが、こういうことは横並びですので、日本にもやがてこういう要求がくるのではないのかなと推測しています。今アメリカはイギリスとやたら仲がいいわけです、今後、メイ首相との間で二国間貿易を詰めていくのでしょうが、その影響で日本も英国との関係が深まり、EUとの関係は疎遠になるのではないかとも思われます。5月に行われるNATOの首脳会議におけるトランプの発言が非常に見ものです。

 

九 トランプの対中国政策 ~ディール(取引)は行われるのか~

中国に関する日本にとっての最大の関心事は米中がディールをするのかということですがこれはよくわかりません。今は中国もアメリカの方の様子を見ている段階で、裏ではずいぶん工作をしている節はありますがまだ目立った行動は起こしていません。これからトランプと習近平との会談が予定されていますので、そこから取引がスタートすることになります。しかし私の感覚ではトランプと習近平の2人が酒を飲み交わしている姿を思い浮かべることはなかなかできません。トランプとプーチンがウォッカを飲み交わす風景は想像できるのですが。しかしながらお互いに考え方が似てくればディールに入りますから、意外と米中が仲良くするという構図は可能性としてあるのではないかと思っています。

今後、大きく3つのシナリオが考えられます。「米中が離反する場合」、「米中が現状維持を保つ場合」、これは日本に大きく響いてきますが、それから「台湾が絡んでくる場合」ですがこれらはどうなるかわかりません。今日米関係が盤石なように見えますが、トランプは就任後習近平に書簡を送り、日米首脳会談の前日には電話会談を行って1つの中国を尊重すると伝えています。また驚いたのは、皆さんもお気付きだったと思いますが、今年の2月1日に、娘のイヴァンカがアメリカの中国大使館に行って春節を祝っていることです。強かな外交を米中とも繰り広げているという具合に私は見ています。オバマ政権までは中国に対する姿勢、要望事項ははっきりしていたわけです。しっかりと軍事的に抑止をしながら経済的にも関与していくというものです。狙いは「中国を、国際法を守る普通の国、責任ある大国にする」ということでした。しかし、トランプの場合には中国にどのような着地点を求めているかわかりません。軍事的には大きな棍棒を振り上げて抑止をして、経済的な関わりを持ちながらディールをしていくのでしょうがその先がよくわかりません。

1990年代初期、レーガン大統領がソ連を崩壊させましたが、その時やった手法とよく似ているとも分析できます。軍拡をどんどん仕掛けていき、それに経済的に対抗できないでソ連はギブアップして、グラスノスチ、ペレストロイカなどを推進しました。それで米ソが手を結んで冷戦を終わらせたわけですが、そのときのレーガンは共産主義撲滅というすばらしいアメリカの理想を持っていたわけです。一方、トランプには共産主義と闘って勝利を収めるという信念が全くありません。中国の共産主義をやっつけるという考えはありませんのでおそらく狙いはディールや利益になるのでしょう。そのようになっていきますと、日本にとっては身も蓋もない非常に都合の悪いことになります。

 

十 どうなる日米同盟 ~米中接近、米中離反の2つのシナリオのはざまで~

米中が接近するというのは日本にとっては悪いシナリオで、共通の敵がなくなりますので日米同盟が希薄化します。日本は何としても米中接近をさせてはいけません。このことはブレジンスキーもキッシンジャーも同じようにパワーポリティクスの観点から主張しています。これが重要です。米中離反の場合は、これは日本にとっては好ましいシナリオで、そのために日本が率先してアメリカを巻き込みながら中国との軍事的な衝突をも辞さないというところまで考えてもいいと思います。うまくいけば、アメリカ、ロシア、日本が連合を組んで中国と対峙するという最善のシナリオになりますがなかなか難しいと思います。更に日本が孤立する場合のシナリオも考えられますが、この場合、軍事大国化、経済負担をはじめとして悪い方向に向かわざるを得ません。

朝鮮半島の問題については、米中関係の行方によってさまざまに変わってきますが、ソフトランディングからハードランディングのシナリオまであります。中国がアメリカの北朝鮮に対する先制攻撃に対してイエスと言った場合には、アメリカが北朝鮮を攻撃するハードランディングになります。逆にトランプが北朝鮮と電話をして歩み寄りソフトランディングをする場合も考えられます。しかし、ハードランディング、ソフトランディングのいずれにしろ朝鮮半島は統一されていきます。即ち米中接近の場合、一旦アメリカが行動を起こせば朝鮮半島は統一に向かうことになります。
米中離反の場合には先制攻撃もありますし、また中国の同意を得ずに北朝鮮を先制攻撃した場合には、中国はもしかすると朝鮮戦争の時のように軍隊を送ってくるかも知れません。私の友人の将軍には「アメリカは、今のうち中国軍を叩いておこうという考えがあるのではないか」と言う人もいます。確かに中国は今叩いておかないと、あと20年後、30年後にはアメリカの巨大なライバルとして現れるわけですから、全面戦争というのはあり得ないとしてもそのような考えも理にはかなっていると思います。

日米同盟については、今後アメリカからいろいろなことが言われてくるでしょう。「武器を購入しろ」とか、「軍事費をGDPの1パーセントより増額しろ」とかですが、軍事費の要求は少額ではなく倍増ということになるかも知れません。その関連として「終末高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を要求されるかも知れません。THAADは韓国からはいつでも撤去できますので、その代わりに日本の中国地方のどこかに配置ということになるかも知れません。

 

十一 日本の活路をどのように切り拓くか ~軍事・政治の活用によるスマートパワー~

最後に私からの提言になります。これまで見てきたように、日本の活路は「日米同盟の堅持」にしかないと思いますが、中期的に見ると、ただアメリカ依存ではなく相当程度、自主防衛に舵を切らざるを得ないと思います。どう考えてもアメリカからの防衛費増額の要求はくると思います。武器購入もせざるを得ないでしょう。自衛隊の海外派遣も応ぜざるを得ないと思われます。在日米軍は死守しなければならないことは間違いありません。これらに応じながら自主防衛の比率を上げていかなくてはなりません。
最大のポイントは抑止力の維持にあります。最終的には日本は「ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)」ということを考えなくてはいけない時代に入ると思います。アメリカの抑止力は以前ほどではなくなってきています。ベルギー、ドイツなどNATO4カ国がやっているように、有事の際はアメリカから核を借りてきて自国に配備する、いわゆる日本が核武装をするという、そのような選択肢も視野に入ってくるのではないかと思っています。

いずれにしましても、これからの日本の対外政策はトップダウンの外交は勿論ですが、軍事力によるハードパワーでも政治力によるソフトパワーでもなく、その両者をスマート(賢く)に組み合わせた「スマートパワー」の考え方が必要になります。日本は、アメリカが抜けた同盟、TPPもそうですが、それらに積極的に関与して牛耳っていき、中国に対しても積極的にリスクヘッジするというようなスマートな外交政策を使ったやり方に努めていく必要があります。
最近私は第2次日英同盟を復活しろということを言っていますが、アメリカが「ニュークリア・シェアリング」を受け入れない場合は、イギリスの核を借りることも選択肢として考えていいでしょう。イギリスはアメリカから核の援助を得て潜水艦発射弾道ミサイルを持っています。日本の領海内においてこれらのミサイルが海面から顔を出すだけでも大いに抑止になると思います。
以上で私の話を終わりたいと思います。有り難うございました。

平成二十九年三月八日 公益財団法人日本国防協会 国防問題講演会講演録より