中台の軍事バランス ~現状と課題~
東京大学 東洋文化研究所教授
松田 康博 氏

皆さんこんにちは。今回、日本国防協会から講演のお話をいただき、初めは、自衛隊のOBの方が多くいらっしゃるのではないかと思っていましたが、必ずしもそうではなくて、会員の多くは自衛隊以外の方々と伺いました。私は防衛省の防衛研究所で16年働いておりましたが、一般の人が軍事・安全保障に関心を持つということは、民主主義国家を維持する上で非常に重要なことだと思います。私自身は武器を扱ったこともなく、シビリアンの研究者として軍事・安全保障に関する研究を続けて参りましたが、最近の日本を含む東アジア情勢の中で「中国の軍事力の伸びは突出している」ということを特筆したいと思います。本日はこのような中国の躍進も含めて「中国と台湾の軍事バランスはどう変化してきているのか」ということについてお話ししたいと思います。

本日の論点の一つは「中国は台湾を武力統一できるか」、「その能力があるか」ということです。中国は「当然ある」と言い切るわけでして、中国軍南京戦区副司令の王洪光中将が3年ぐらい前に公の場で「2020年までに中国大陸と台湾の衝突は必ず起きる。そして台湾海峡で戦争が起きれば、全島奪取まで一挙に、おそらく日単位ではなく時間単位で決着がつくであろう」と発言しています。2020年まではあと数ヶ月しか残っていないわけですが(笑)。ちなみに南京戦区は台湾武力解放が行われれば台湾作戦を担当する戦区になります。彼は英字紙「Global Times」を発行している人民日報系列紙「環球時報」の編集委員にも就いていますので、私はこの発言は宣伝色の強いものだと思っています。そんなに簡単に台湾を制圧できるものではありません。もし時間単位で言うとしたら「台湾占領には何千時間かかるのか」ということになるでしょうか。

それでは「真実はどうなのか」ということで、実態を見ていきたいと思います。

 

軍事バランス理論では「軍事力のバランスが取れていれば戦争は起きにくい」、「バランスが崩れると戦争が起きる」と考えます。これは国際関係論の現実主義の考え方で「相手が力を持っていたら自分も力を持つ」、或いは「自分が足りなければ同盟関係によってバランスを取る」ということです。

そこで中国と台湾の軍事力ですが、防衛白書に掲載されている軍事力一覧表を見ますと、陸上兵力は中国200万人、台湾22万人です。潜水艦は中国70隻に対して台湾4隻と大きな差があります。その4隻のうちの2隻は第二次世界大戦中の艦で訓練用のものです。また作戦機では中国の3000機に対して台湾は500機で、いまだにF-5Eが飛んでいたりしています。このように、台湾の軍事力の方が優勢だったというのは90年代半ばぐらいまでであって、今は互角か中国の方が上だなという感じがしています。しかし軍事バランスというのは、ただ白紙的に軍事力を比較して「どちらが強いか」という話ではありません。例えば海軍の力というのは、太平洋上で互いに艦船を浮かべて「サーやります。用意ドン」といって「どっちが強いか」ということを争うものではないということです。戦争には目的があります。戦闘で負けても戦争の目的を達成すれば勝ちとなりますし、逆に戦争の目的を達成できなければ、戦場でいくら勝利しても意味がないのです。したがって「何のための軍事バランスか」が重要になります。

台湾が中国統一を目指して大陸反攻するということは、蒋介石の時代にはよく云われていましたが、今ではもうあり得ない話です。ですから、台湾から攻めていく能力をいくら比べても意味がありません。問題は「中国が台湾を武力で統一する力があるかどうか、そして台湾がそれを跳ね除ける力があるかどうか」ということになります。

 

一 軍事バランスを検討する前提 ~中台の非対称性~

中台の軍事バランスを検討する前提として「中台の非対称性」を見ていくことが大切になります。第一には地政学的な条件です。中国は広く、奥地からミサイルを撃つこともできるし、近いところから攻撃することもできます。いわゆる「戦略的な縦深が深い」ということで、中国の息の根を止めることは難しいものがあります。台湾は逆に台北から高雄まで南北の中国大陸に面した側に大きな平野がありますが、その背後はすぐに中央山脈となって戦略的な縦深はほとんどありません。一気に突進されたら立ちどころに席捲されてしまうかも知れません。

次に戦略目標については、中国は台湾を取ることが目標で、台湾は自分を守り切ることが目標になり、大きな非対称性をなしています。

3つ目は核兵器の有無にあります。中国は核兵器を持っていますが、これを使うと大きな政治的コストを払うのみならず、何百万人の台湾の同胞を苦しめ、土地を放射能で何十年にもわたり汚染しますから、将来の歴史からどのように評価されるかということを考えると、なかなか使える手段ではありません。

4つ目は兵器体系の違いです。中国は核兵器、弾道ミサイル、長距離爆撃機、超音速兵器等何でも持っています。恐らく国際法違反の生物化学兵器も持っているのでしょう。日本は専守防衛という政策上、「他国に脅威を与える長距離弾道ミサイル、長距離爆撃機、他国を攻撃する空母は持たない」と国会で明言していますが、実は台湾も日本に非常に似ているのです。というのは、台湾が武器を購入できる国はアメリカだけで、アメリカは「台湾関係法」という法律に基づき台湾に武器を供給していますが、武器は防衛用に限るということになっています。

5つ目は非正規戦をめぐってですが、中国は台湾を攻撃すると同時に非正規戦、テロ、要人暗殺、社会秩序の攪乱などを仕掛けてきます。このため台湾社会にはすでに相当数の工作員が入り込んでいます。そして一旦ことが起きると破壊活動を始めるのでしょう。台湾では定期的に選挙があり、総統でさえ選挙活動においては一般民衆と握手を交わしますので、暗殺しようとすれば簡単にできます。私も台湾のホテルで、総統、行政委員長たち要人が一堂に会したところに居合わせたことがあり、その時「今ここで爆弾が爆発したら中華民国政府はどうなるのか」と考えて、ちょっと怖い思いをしたことがあります。

ところが、台湾から中国大陸に入り込むのは極めて難しいものがあります。中国では習近平に近づくことは夢のまた夢というか、全く不可能です。そもそも社会体制のあり方が違いますので、台湾は中国に対する攪乱工作がやりにくく、中国はやり易いという非対称性があります。

最後に軍事力の規模についてですが、中国は作戦機を3000機近く持っています。半数以上は古い航空機ですが、ジェット戦闘機パイロットの確保という面から見れば、パイロットの養成は短期間にそう簡単にはできませんから、総力戦、消耗戦になった場合は数の優勢を十分に生かして成果を上げることができます。ミサイルよりも飛行機の方が多ければ、ミサイルを潰して最終的には爆撃ができるわけですから。

 

二 台湾進攻作戦の特徴 ~全島制圧を狙う中国、要塞化で上陸の弱点を狙う台湾~

中国は台湾にどのような戦いを仕掛けてくるのでしょうか。言い換えれば「限定的な攻撃に終始するのか」、それとも「全島の制圧を狙うのか」ということですが、台湾を混乱させる、或いは経済を破壊するということであれば今でもできます。中国は損害を被らずにできますが、それではほとんど意味がありません。中国の目標は台湾統一にありますので全島の占領を諦めて途中で止めたら、すでに台湾側には多くのの犠牲者が出ていますので、中国に対する反発から独立の動きが強まることが考えられます。一度始めたら、一気に既成事実を作ってしまわなければ意味がありません。クリミア半島の場合も、ロシアが一気に既成事実を作ってしまって、今や元には戻れない状態になっています。どうせやるのでしたら徹底的にやらないと意味がないということになります。したがって、中台の軍事バランスは「中国が全面制圧できる能力があるかどうか」という観点で見ていきたいと思います。

中国は台湾にどれだけの兵力を充当するのでしょうか。首都防衛、ロシアへの対処、南シナ海の警備なども考えると、結局のところ東部戦区と南部戦区、だいたい上海から広東省にかけての地域に所在する兵力、これが台湾向けの兵力になりますので、これらと台湾全体の兵力を比べていかなければなりません。実際に武力行使をする場合、何も準備をせずに「明日やるぞ」と言ってできるものではありません。まずは作戦計画を策定し、これに基づいて訓練を積み重ねなければなりません。台湾進攻は九州の場合と同じぐらいの規模になりますから、そのための計画、訓練も膨大なものになります。湾岸戦争のときに米軍がクウェートを解放した時には、事前に周到な訓練を行い砂漠用の装備も十分に備えた上で侵攻しました。

台湾に対する武力進攻はまず幅100キロメートル以上の台湾海峡を挟む上陸作戦から始まります。海が大荒れに荒れていると難しいので冬の間はまず無理です。夏から秋にかけては台風が来襲します。作戦に必要な期間を2週間かかるとすれば、海が平穏な期間は5月から10月にかけて2回ぐらいチャンスがあるだけで、一年のうち台湾に進攻できる時期は1ヶ月ほどしかないのです。それ以外の時期は船が大きく揺れますのでとてもやり難い状態が続きます。また船からいきなり崖に登るわけにはいきませんので、上陸適地が必要になります。朝鮮戦争の時の仁川のような遠浅のところが良いわけでが、台湾では上陸に適したところは13ヶ所ぐらいしかないと云われています。このように中国が行う上陸作戦は時期と場所が極めて限られますので、台湾側は当然そこを要塞化して守っているのです。このように中台の軍事バランスというと、一見両国の軍事力比較の数字だけを見て「台湾は到底敵わない」と思うかも知れませんが、実際に現地の状況に当てはめてみていかないと、「どちらが強い」ということは簡単には言えません。

 

三 弾道ミサイルで始まる緒戦の様相 ~ミサイルを集中する中国、抗堪力を高め防空網を強化する台湾~

では実際に、戦いはどのように展開していくのでしょうか。まず中台の間で政治的な緊張が高まり、それが軍事的な緊張に波及して中国が台湾への武力進攻を決意したとします。当然、まずは奇襲を追求しますが、奇襲攻撃は大規模になればなるほど困難になります。ましてや現在は衛星をはじめ、さまざまな情報が入ってきますので、昔のように簡単にはいきません。台湾側がある程度準備をして守りを固めたところで戦端が開かれたとします。まずは弾道ミサイルの攻撃から始まります。中国の弾道ミサイルにはアメリカ向けのICBM(大陸間弾道ミサイル)、日本・インド向けのIRBM(中距離弾道ミサイル)などがありますが、台湾向けのMRBM(準中距離弾道ミサイル)、SRBM(短距離弾頭ミサイル)は750発から1500発と云われています。2000年代初めには200発ぐらいしかなかったのですが、十数年かけて千数百発まで増やしています。これに対して台湾側はPAC-3(ペトリオットミサイル改良型)で対抗しようとしていますが、中国がこれらの迎撃ミサイルの数よりも多くの弾道ミサイルを使用してくればどうしようもありません。しかも最初の百発ぐらいは弾頭を空にして迎撃用の高価なペトリオットミサイルを消耗させれば、より効果的な戦いができます。

中国の弾道ミサイルは、台湾の政経中枢である総統府、行政院或いは国防部、各軍司令部、空軍基地に雨あられと降ってきます。15年前、中国にはGPSシステムはなかったのですが、「北斗衛星測位システム」を完成して自前のGPSシステムを持ちましたので、それに合わせてミサイルの姿勢制御もできるようになり、最近はかなり命中精度が上がってきたと云われています。

 

防衛する台湾側は損害を回避するため、基地の抗たん性を高めています。台湾の空軍基地は戦闘機などを防護する掩体を備えています。先日、台湾に行ったときに軍関係者に「滑走路が穴だらけになったらどうするのか」と訊くと、「直ぐに修復し、その後はスキージャンプ方式で離陸する」と言っていました。スキージャンプ方式というのは、スキージャンプ甲板を使用して非常に短い距離で離陸させるものですが、その代りペイロードが少なくなるので、戦闘機は燃料とか爆弾はあまり積めません。とにかくそうやって何とか迎撃機を送り出し、帰還するときには高速道路に着陸させながら、その間に急いで滑走路を修復すると言っていました。

また、花崗岩の山をくり抜いた基地が台湾東部の花蓮というところにあります。危ないと思ったら、そういうところに戦闘機を隠します。本音を言えば、F-35Bのように垂直離着陸ができる高性能の戦闘機が欲しいのですが、それはアメリカが売ってくれないとどうしようもありません。

第二次世界大戦においては、ナチスドイツのⅤ2ロケットでイギリスが音をあげることはありませんでした。中国は弾道ミサイルでレーダーサイト、対空ミサイルを一時的に麻痺させた後、その次は爆撃を敢行しなければなりません。爆撃ということになりますと、台湾側は海峡に「中間線」を設けて警戒体制を確立して優れた防空網を構築していますので、本来は高高度から精密爆撃をしなければなりませんが、中国のそのような能力はまだまだ低いと云われています。するといやでも低く降りてきて爆撃しなければならないことになりますが、そこには台湾の航空機による迎撃或いは対空射撃が待ち受けており、その餌食になるリスクが増大します。中国の弾道ミサイルや巡航ミサイルだけでは、台湾の防空網を完全に潰すことはできませんし、中国軍は過去15年ぐらい前までは飛行訓練時間が少な過ぎると云われており、最近は相当良くなってきましたが、それでも100幾が編隊を組んで行う大規模な爆撃などは実施したことがなく、その能力は未知数なのです。

防空網を潰すには艦砲射撃という手段もあります。艦砲射撃は安価な砲弾でたくさんの地上施設を破壊できるので効果が大きいのですが、中国の戦闘艦が台湾に近づいて行くと、米国製ハープーン対艦ミサイルや台湾製「雄風3」対艦ミサイルの脅威に曝されます。台湾製ミサイルについては、2年前の高雄軍港の中で起こった誤射事件、超音速で飛行して小さな漁船を自ら探知して船体の中央部に命中したことで、台湾海軍の規律の緩みも問題なのですが、一方「空母キラー」と呼ばれるミサイルの性能が明らかになりました。今中国海軍が一番恐れているのは台湾海軍による誤射だと云われていますが(笑)、確かに誤射にしても撃たれたら空母遼寧なんかあっという間に沈んでしまいますので、そう簡単には近づけないわけです。

中国は正面からの攻撃と同時に、情報戦、特殊部隊による非正規戦を行うと考えられていますが、これはまだよく分からないところがあります。まずインターネットを使えなくするのでしょう。そうでなければ「中国は台湾を占領しつつある」、「台湾軍は持ち場を離れて逃げてしまった」、或いは「総統は既に死亡している」とかさまざまなフェイクニュースを流して心理戦を行い台湾国内の混乱を煽るのでしょう。山岳地帯に特殊部隊が降下して原発などの施設を攻撃したりするかも知れませんが、台湾側も九州と同規模の地域に全自衛隊と同じぐらいの二十数万の兵力を展開し、予備役を含めるとかなりのものになり相当の準備はしていると思われますので、戦いの帰趨がどうなるかは分かりません。

 

四 海上優勢の争奪から始まる上陸作戦の様相 ~民間船も動員し総力を展開する中国、戦車・火砲・ミサイルの水際配置により上陸阻止を図る台湾~

海上優勢の争奪については中国側に分があります。潜水艦の優勢に併せ、艦隊防衛の能力が高まったことが大きな要因です。15年前は中国の艦隊防衛能力は非常に劣っていました。日本は艦隊防衛に優れた機能を持つイージス艦を保有していますが、中国にはそのようなものはなく、最近ようやくロシア製の兵器を使用した「似たようなもの」を保有していますが、能力についてはよく分りません。それでも以前のように台湾のF-16が対艦ミサイルを抱えて行けばそれで終いということにはならなくなっています。ただ台湾海峡の中間線に迂闊に出てくると、台湾の対艦ミサイルの餌食になってしまいますので、なかなか出て来れないであろうと思います。しかも台湾が機雷を敷設してしまいますと、そう簡単に近づけるものではありません。

台湾軍は戦車や火砲を水際で使います。台湾の軍事演習を見ていると、遠くからやってくる船を155ミリ或いは203ミリの榴弾砲で撃つのです。勿論戦車でも撃ちます。台湾では今度アメリカのM1戦車の購入を決めましたが同様に運用されます。いずれにしろ、進攻する側が海上優勢を取り、上陸作戦を敢行するというのは容易なことではありません。何しろ対艦ミサイル1発で軍艦1隻を沈めることができますから。日本やアメリカの軍艦は穴を開けられても隔壁によって他のところには浸水しないように造ってありますが、中国の軍艦は造り方が雑で穴が開いたところからドンドン浸水してきて沈んでしまうと云われています。戦闘の進展に伴い、台湾側は海軍を台湾海峡から太平洋側に移動させつつ兵力を維持し、掩体で温存してきた航空兵力とともに戦闘を継続していくのでしょう。

 

中国にとってはこのような状況の中、何とか上陸作戦を成功させようとしますが、そうすると参考になるのはノルマンディーです。第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦では上陸海岸に押し寄せると同時に、奥地の方に空挺部隊が降下しました。空中機動作戦が展開されるわけですが、台湾側は低空侵入する航空機に対して携帯対空ミサイルのスティンガーで対抗します。このミサイルはアフガン戦争でソ連製のヘリを打ち落として有名になりましたが、低空飛行を行う航空機を撃墜するもので、台湾はこのスティンガーを1200発以上持っています。操作は簡単で兵士がひとりで撃てるのでどこにでも展開することができ、ヘリボーンなど空中機動作戦の大きな脅威になります。

中国側が検討しているのは民間船の大量動員と云われています。1996年の台湾海峡危機のときには約1000隻の民間の船を動員しました。今中国の民間の船は「設計段階で軍事転用できるように」ということが法律で決まっています。いざというときには、機雷の数より多い民間船で一気に台湾海峡を横断するという、いわば「海の人民戦争」―毛沢東が聞いたら喜ぶような戦い方なのですが―そういうことを真面目に考えていると云われています。ただ先ほど言いましたように上陸に適したところは極めて限られ、そこを台湾側は機雷を敷設し上陸を防ぐための障害物を設置し、陸軍は戦車をはじめ火砲を準備して守っているわけですので、これを実際にやったら地獄の様相が生起するでしょう。

民間の船ですから別に鋼鉄で守られているわけではなく、機関銃でも蜂の巣になり、強行突入の結果、半分以上の船が沈められ、生き残った何百隻が上陸を敢行します。そして、対空戦を戦った空中機動のヘリと航空機から降り立った兵士、当然軽装備になりますが、その兵士たちが徒歩で台北を占領しに向かい、或いは桃園の空港を奪取しに進軍して行きます。台湾側は戦車から装甲車を持っているのに対して軽装備の歩兵主体の兵士たちが突っ込んでいくことになりますから凄惨な戦いになるでしょう。勿論、戦車も抱えた正規の部隊も上陸してくると思われますが、これらに対しては台湾側も戦力を集中して徹底的に潰しにかかりますので、そう簡単には前進できず、ほとんど特攻作戦みたいな様相が展開されるでしょう。

その後、残った人たちが台北やさまざまな軍事施設に向かって前進を継続します。何万人もの兵士が手持ちの装備だけを持って徒歩で前進して行くところに台湾陸軍が立ちはだかりますが、それでも海岸堡をきちんと造って、そこに大量の装備品、部隊を送り込むことに成功したとすると、桃園から台北に向かう進軍が進捗します。そして最終的には台湾の総統府、行政院を中心とした統治組織というものを完全に掌握し、臨時政権を立てて作戦が終結することになります。

 

ここまでお話ししてきてお分かりと思いますが、これは大変な作戦になります。どこかで躓くかも知れませんが、躓いたらそこで終わりです。航空優勢が取れなかったら上陸作戦ができません。海上優勢も取れませんし、空中機動作戦もできないのです。台湾の防空網を叩かなければいけないのですが、完全に叩くのは非常に難しいことです。かなり潰せるかも知れませんが、互いに大消耗戦になるだろうと思います。相当な部隊が失われる状態になるでしょう。とにかく米軍が来援する前に早く片付けなければならないというプレッシャーがありますので、「相手が抵抗できなくなるまで攻撃して、ハイ次へ」というような余裕のある戦い方はとてもできないということになります。

 

五 中台の戦いに米軍は介入するか、するとすればどこまで介入するのか

台湾側は守り切れば良いわけです。他方中国側は最終的に勝たなければ意味がありません。100キロメートルの海を隔てて重武装された島を取るというのは極めて難しいことです。しかも企図の秘匿は難しいものがあります。全部バレバレの状態で作戦が行われます。バレバレの中で中国軍は突っ込んでくるわけです。ここで問題になってくるのが、アメリカが介入するかどうか、或いはどこまで介入するかということです。

アメリカは中国の台湾侵攻に対して「どうぞ」とは決して言いません。「絶対に許さない」という姿勢を崩さないはずですが、問題はそのことをどういう形で保証するのかということです。もしも非常に早い段階でアメリカは台湾をサポートするということになれば、そのレベルは別にしても台湾側の士気は維持されます。アメリカにしてみれば、台湾の士気が崩壊して防衛体制が崩壊してしまうとアウトですから、可能な限り早い段階で台湾をサポートするのは間違いないだろうと思います。しかしながら「台湾をサポートする」ということを明確にすると、中国との対立になります。「中国との対立はできるだけ避けたい。特に正面衝突は避けたい」とアメリカは思っているはずですので、それではどのようなやり方があるかということです。例えば米軍が上海を爆撃したら大変なことになります。中国経済もおかしなことになりますが、アメリカ経済も大変なことになります。中国国内の神経を逆撫でするような作戦はできないだろうと思います。

それでは中台の間が危ないとなった段階で、アメリカの潜水艦が台湾の近くの海域に潜伏するというのはどうでしょうか。そもそも秘匿性を本来の武器とする潜水艦にとって、中国から台湾に近づいてくる戦闘艦或いは潜水艦を沈めるということはあり得るわけです。どうやら米海軍の潜水艦が活動していて、中国の艦艇はそれによって沈められているらしいと警告すること、そういうのが一番政治的なコストが少ない介入の仕方になります。

ですからアメリカにしてみれば、自ら上陸して正面切って戦わなくても、中国が台湾を全部取ろうと思ったらそれを阻止すれば良いだけのことです。中国は台湾を包囲して封鎖する能力はありますが、逆に言えばアメリカにもそれを阻止する能力はあります。先ほど見てきたように、中国が台湾に上陸し何万人の兵士がボロボロになりながらも前進を続けているとき、アメリカが介入して台湾海峡を封鎖したらどうなりますか。上陸軍は援軍が得られず、孤軍になるわけです。孤立した軍隊ほど可哀そうなものはなく、降参するか殲滅されるかのどちらかになります。アメリカはコストをできるだけ低く抑えるような状態で介入します。適時に介入していくのです。烈度を低くして、政治的・軍事的コストを抑えながら、中国が次のステップに進めないような介入をすることはできるのです。唯一の問題は、台湾海峡が浅すぎて潜水艦作戦に向かないことです。したがって、米海軍の潜水艦が台湾海峡に入ることはあまり考えられませんが、おそらくこの抜け穴をふさぐために、台湾は潜水艦の国産化を急いでいます。

もちろん正面衝突も考えられなくはないですが、もしそうなったら大変なことになります。中国は最初にアメリカの軍事衛星を撃ち落とすでしょう。そうするとアメリカは猛り狂って同じことをやり返すだろうと思います。米中全面戦争ということですが、米中はともに全面戦争をする気はありません。そのようなことをしたら人類の終わりですから。そうすると限定的にお互いの目的を達成しようと、いろいろなレベルでの介入という形を考えて対処していくのが妥当であろうと思います。

 

このように見ていくと、冒頭に紹介した中国人民解放軍の将軍の言葉というのは純粋なプロパガンダであり、軍事を知らない台湾人をビビらせるためのものだということが分かります。「抵抗しても無駄だ。高いお金を払ってアメリカから武器を買っても無駄だ、さっさと降伏しろ」というプロパガンダなのです。ですから、このような恫喝に屈しないためにも、一般の人が軍事的な知識を持つことが如何に重要であるかということになります。中国はいろいろなプロパガンダに長けています。自国民も含めて世界中の人を騙そうとするわけです。そういうものに騙されないような判断能力を養っておくことが大切なのです。

繰り返しますが、軍事バランスの研究というのは、ただ単に太平洋に互いに船を浮かべて用意ドンとやるものではないと思っています。具体的な戦場というものを想定し、「相手の戦場で戦うのか、自分の領土で戦うのか」、「どちらが先に手を出すのか」、「戦争目的は何なのか」ということを明確にした上でさまざまなケースについて考えていくと、実は、「台湾を守り切る」ということにはそれなりの可能性があり、「中国が台湾を最終的に制圧する」というのは結構厳しいということが分かってくると思います。

 

六 将来の軍事バランスの動向 ~必ずしも「軍事的合理性」に基づかない中国の軍拡の実体~

将来、軍事バランスはどのようになっていくのでしょうか。どっちがどう強くなっていくのでしょうか。一方は中国で後ろにロシア、もう片方は台湾でバックにはアメリカがついているという枠組みです。中国はすでに自前でさまざまな兵器を作れるようになっています。弾道ミサイル、巡航ミサイル或いは無人機、宇宙の分野など、一部はすでにアメリカを超えていると云われるぐらいの能力があります。ただ、私は中国の軍拡の脅威を認めることについて、短期的には若干留保しなければならないと思っています。

以前の貧しいころの中国の兵器体系は包括的でどのような兵器だって持っていたのです。例えば原子力潜水艦にしても1番艦、2番艦を造って終わりです。何故かというと保有していることが非常に重要なのです。持っていることでどのように運用するかを考え、いずれ良いものに換装したときに役立つようにと人員を訓練し、「持ってはおくけれども量産はしない」という方針だったのです。2000年ぐらいまでは中国はこのような状況でした。

ところが21世紀になってから中国はやたらと兵器を造るようになりました。現在世界で新造されている軍艦の過半数は中国海軍です。めちゃくちゃなペースで造っているのです。国産の空母1号艦はスキージャンプ方式を採用しています。スキージャンプ方式というのは1960年代の技術で、搭載航空機のペイロードが非常に少ないのです。また中国の戦闘機はエンジンが非常に弱いので機体に兵器を多く抱えられません。雑技団(西洋のサーカス団)みたいなものでアクロバット用なのです。そのように技術的な革新がないのに次から次へと船を造っているのです。私が中国の納税者だったら泣いていますが、お金がもったいないとしか言いようがありません。空母というのは非常に高価なプラットホームですので「どれだけお金を使うのか」という思いがしています。しかも空母は遠いところに出かけていくもので台湾向けには使えません。空母が台湾海峡にいたら一発で沈められてしまいます。空母は全部で4隻体制になるらしいですから物凄くお金がかかります。その分必要な装備に手が回らないとか、或いは予算が足りず訓練を減らすとかとなってくる可能性があります。ですから実際のところ「中国がどれだけ強い軍隊になっていくのか」ということは、これからの経済情勢に加えて軍事的な合理性を持った建軍計画―日本でいうと防衛力整備計画ですが―そういうものをどれだけきちんと策定し実行していくのかを見ていく必要があります。

これは余談になりますが、恐らく中国は戦争するために空母を造ってはいないのでしょう。先日私は、あるインタビューを受けたとき大変象徴的なことを言ってしまいました。「米軍は実戦で世界一、日本の自衛隊は訓練で世界一、で中国の軍隊は軍事パレードで世界一」と言ってしまったのです(笑)。SNSで叩かれたそうですが。中国の10月1日のあの軍事パレードを皆さんご覧になりましたか。素晴らしい惚れ惚れするような軍事パレードで、とてつもない労力をかけています。あれを見て中国人は「アー中国は強くなった」と思うわけです。前任の指導者たちは1回ずつしかしていませんが、習近平はあの軍事パレードを3回もやっています。内政的に必要なのです。日本はそうではありません。NHKの7時か9時のニュースで1時間、朝霞駐屯地での自衛隊のパレードを放映したら、日本は軍国主義になったのかと支持率が下がってしまいますが、中国は違います。中国はアヘン戦争以来、ずーっと外国からいじめられてきたという意識がありますから、とにかく強い軍隊があるのは良いと思い込んでいるわけです。ですから「空母もできた。空母は大国が持っているものだ。中国は大国になったのだ」といって「雑技」をやっているわけです(笑)。先進国とばかり対峙しているわけではなく、弱い国のところに行ってやればそれなりに威嚇効果があり、中国の戦闘機が飛んでいると、中国には勝てないというように思うかも知れません。孫子の「戦わずに勝つ」ではありませんが、砲艦外交に使えるだろうということでしょう。

中国はこれまで20~30年、とてつもない勢いで軍事支出を増大して野放図に欲しいものを買いまくり、造りまくってきました。しかしこれから、中国の経済発展はスローダウンしていきます。そうするとスクラップ・アンド・ビルドをしなければなりませんが、そうなれば陸海空軍の闘いとか、水上艦艇と潜水艦との闘いとかいろいろな予算の取り合いが起こってくるでしょう。これは既得権益ですから、既成事実ですからということでもう止められないのです。見方によると、10年後にはできないから、今のうちに船を造っておこうと思って必死にやっているのかも知れません。

日本ではむやみに生産ラインは拡大せずに耐用年数を延長して、1隻1隻、いろいろな技術革新をきちんとやって、1隻ごとに良いものを造っていくという形で装備化を進めています。このように慎重に進めても失敗というものはなかなか避けられないものですが、中国の場合には「今のうち、造れるうちにどんどんやれ」とハイペースで装備を生産しており「果たしてこれで強い軍隊になるのか」、「この後、造った生産ラインはどうやって維持するのか」、「空母を作って他の国に売却するのか」などの疑問が次々と湧いてきます。このように、中国の軍事力には軍事の合理性から考えたら大きな罠があると私は思います。「過剰拡張の罠」と私は呼んでいます。

 

七 台湾と日本、いかにアメリカを引き留めるのか ~「トリップワイヤー」の重要性~

台湾では来年の1月、総統の選挙があります。台湾の総統は任期4年で、アメリカの大統領も4年任期で同じ年に大統領選挙を実施します。ということは、台湾の総統選挙が大きな盛り上がりを見せて中国が過敏になったときには、実はアメリカも大統領選挙が近くなっているわけです。中国が武力を行使しそうだということになったら、それに対してアメリカの大統領候補は強硬に出ざるを得ないのです。中国が台湾を攻める或いは攻めそうだという時に「どうぞ」というアメリカ大統領候補は当選できません。実は、この選挙日程は戦略的に計算されているのです。

実際に戦争が起こるか起こらないかというのは、そのときの状況、民意の流れとか、国際世論の動きとかいろいろなことを見ないと分かりません。普段の世論調査で「アメリカは台湾を守るか」と訊いたら低い支持しかありません。20パーセントか30パーセントしかないのです。ところが実際に戦争が起こってミサイルが雨あられのように降ってきて、CNNが「いっぱい人が死んでいます。中国共産党政権が、台湾の民主主義を抹殺しています」と報道したら、アメリカ人は「これはけしからん」と言って熱気が上がっていくのです。ですから台湾にとっても、また日本にとっても、アメリカの台湾、日本を防衛する意志を持続させること、言い換えれば「アメリカを如何にして引き付けていくのか、抱き込んでいくのか」―よく「トリップワイヤー」というふうに言われますが―このことが非常に重要になってくるのです。

先ほどアメリカは台湾をサポートするだろうと言いました。これは言ってみれば気合いの問題です。「本当に守るぞ」と言えば守るということになるのですが、諦めたらその時点で終わりです。言い換えるならアメリカに諦めさせるために中国は心理戦をやり、プロパガンダをやるのです。「諦めろ。無駄だ。アメリカが守ってくれるわけがないだろ」と。これは日本もやられましたが、中国はあちこちで「尖閣諸島みたいな岩のために、アメリカが中国と戦争すると思うか」ということを言ってきたわけです。それは実は痛いところをつかれているわけで、日本人は不安を抱えながらも「同盟国だから守ってくれる」と思い、アメリカ人は実はやりたくないと思いながらも「守ります」と答える。実際は、そのときにならないとどうなるかは分からないということですが、これが現在、我われが置かれている現実なのです。

日本に米軍基地があるということは、沖縄では大変な政治的コストを支払っていますが、実はそれで日米が一蓮托生になっているという現実をもたらしています。在日米軍基地を攻撃することは、日本に対する武力攻撃事態にもなり、中国はアメリカと日本を同時に敵に回して戦争するということです。中国にすればこれを相当きついものになります。したがって、日本にはなかなか手が出せないという状態になっているわけです。

 

八 自衛の意思がゆらぎ始める台湾の今後 ~「台湾を守る」という一点で国民の意思が再統一できるか~

アメリカは台湾に対する軍事支援として、今年に入って巨額の台湾防衛装備品の輸出を決めましたが、中国の過剰な反応を招いています。台湾が8月にF-16Ⅴを買うということを決めた後、中国は8月1日から台湾に対する観光旅行客を半減させました。中国人の爆買いの恩恵を受けている台湾にとっては結構痛いわけですが、それでもそれを見越して航空機の購入を承認して予算を編成して国会で決定しました。

結局は、台湾の自衛の意志と努力如何ということになります。国防というのは「俺は最後まで音を上げない。降伏しない」という意思があるのか、或いは「ヤー敵わないよ。勝てないよ」と言って諦めるかで大きな差が出ます。台湾は今どんどん自信を失ってきています。「中国があんなに強くなるとは思わなかった。勝てないよ。アメリカが我われを守ってくれるとは思えないし、日本はどうせ守ってくれない」と思っているのです。若い人たちにどうなのかと聞くと、「先生、台湾の軍隊って私みたいなヤワな人が入っているのです」と言うのです(笑)。しかも前政権のときに、これは人気取り政策だったのですが徴兵制を廃止しました。若年人口で兵役に適する人口が100万人もいないところで徴兵制を止めるとどうなるかというと、兵士のなり手がいないわけです。台湾は今、兵員数の確保に相当苦労しています。戦闘機は買った、戦車は買ったといっても、兵士がいない状態になりかねないのです。また志願制の軍隊にすると、相当の給料を払わなければなりません。しかもその後の軍人年金も相当なものになりますから、手当が大変重要になってくるのですが、その財政的な余裕がないのです。見切り発車でやってしまったのです。このように「台湾は本当に自衛の意思があるのか」、「その努力は足りているのか」というのは実はクエスチョンマークになっています。

また中国と台湾の関係は深く、今会う台湾人の中で、親戚が中国大陸で働いていない人を見つけるのが難しい状況です。必ずいるのです。100万人ぐらいと言われています。2350万人の台湾の人口で、100万人近い人たちが中国で定住又は半定住で仕事をしています。23人にひとりですが、これでは秘密を守るのは難しく、最近法律を非常に厳しくしました。軍人・公務員は今までは辞めてから3年間の間は原則中国への渡航は禁止で、必要がある場合は許可を貰えということになっていたのですが、これを3年から5年に延ばしました。軍人に関しては15年です。高級軍人については生涯にわたり許可が必要という形にしました。何故かというと、退役した台湾軍人の将軍が100人ぐらい上海に住んでいると云われています。これでどうやって台湾を守るのでしょうか。彼らは蒋介石とともに台湾に渡った人たちです。ですからそもそも中国大陸出身であって、台湾で軍人の年金を貰って上海で過ごすのは彼らの願望でもあるのです。そうすると中国の情報関係者の人たちが何も知らない軍事マニアを装って、「将軍、将軍の話を聞かせてください」とか言って、「アー素晴らしい」とか言ってちやほやするわけです。歳を取ると自分の子供も話を聞いてくれなくなりますから、そうなってくるとそういう人たちが「イヤー実は・・・」と喋ってしまうことになります。だから将官クラスの軍人の現役も退役も含めて、ほぼ毎年のように情報漏えい事件が起こっていました。こうした好ましくない状況を是正するために、現政権は努力を重ねています。

 

台湾がどれだけ自衛の意志を持って努力を続けていくのか、これはただ単にお金をかけるとか武器を買うだけではないということです。「台湾を守る」という一点で国民の意志が統一されていることが何より大切になります。そしてそれが、今後の中台の軍事バランスを決定する大きな要因になるだろうというのが私の結論です。

まだ時間がございますので質問があればお願いします。

 

令和元年十月十九日 公益財団法人日本国防協会 国防問題講演会講演録より