「朝鮮半島・東シナ海をめぐる情勢と日本の防衛」
中谷 元(衆議院議員 元防衛大臣)

まずもって日本国防協会の会長として、大勢の協会の皆さまにご支援をいただいておりますことにつきまして、心から感謝と御礼を申し上げます。

昨年は酉年ということで、酉は干支でいいますと10番目の年ですが、酉という漢字は物が成る、物事を収穫するという意味があります。今年は戌年ですが、戌は11番目ということで漢字の上でも、酉を得たあとその先に向けて整えるという意味があります。2年先といいますと2020年になるわけですが、オリンピックもあり、また天皇陛下の御退位に伴う新しい元号制定もあり、平成の時代が終わり次の時代へと向かいます。一つの区切りとして、2020年に向けてしっかり態勢を固める一年になるのではないかと思います。

安全保障の面については、昨年、アメリカはトランプ大統領が就任して大きく変わり、また中国も党大会を終え、習近平主席があと5年続けていく体制が整いました。

今年は、2月に韓国の平昌(ピョンチャン)でオリンピックが開催され、3月にはロシアの大統領選挙がありますが、プーチンが再選されてロシアもあと5年プーチンによる長期安定体制が続くということになるでしょう。4月には日銀の黒田総裁が任期を終えますので、今後の経済政策がどのように変わるのか、そして今の景気がどうなってゆくのかということが注目されます。9月は自民党の総裁選挙があります。安倍政権も平成24年12月の第2次内閣組閣以来6年目となって多くの実績を残してきており、現在、憲法改正、「これをどうしてもやる」という意気込みで臨んでいます。総裁選挙について安倍総理は「セミが鳴き止むころに決断します」と言っていますので、8月頃にはそれに関する動きが出てくると思われます。11月にはアメリカで中間選挙があり、トランプ政権の基盤が今後どのようになるのかが注目されますが、今年もこれらの大きな世界的動きを睨みながら、わが国としてもしっかりと対応していかなければと思っています。

 

朝鮮半島をめぐる情勢

当面は朝鮮半島の情勢を見ていかなければなりません。北朝鮮で20年前から核開発とミサイルの発射実験が始まっているわけですが、弾道ミサイルは昨年、一昨年とだいたい年間30発ずつ発射されました。まず1998年、はじめてテポドンが日本上空を通過し、その後テポドン2に代わり、2012年には日本の南方に向けて発射されました。2016年にはテポドン2改良型が現れて精度と射距離が伸びてきています。そして昨年、2017年8月に火星12号(IRBM:中距離弾道ミサイル)、9月に火星14号(ICBM:大陸間弾道ミサイル)ということで、いよいよアメリカまで届くICBM発射実験が行われました。

北朝鮮は各種のミサイルを持っています。朝鮮半島向けの射程500キロメートルのスカッド、日本をすっぽりと射程に収める1000~1500キロメートルのノドン、射程1500キロメートルのSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)ムスダンなどです。

次いで新型ミサイルも次々と発射されています。2016年9月にスカッドERを同時に3発発射しました。2017年2月、射距離を大きく伸ばした北極星2号をロフテッド軌道で高度3000キロメートル以上打ち上げ、3月にスカッドミサイルを4発発射し、5月に入り、火星12号を高度2000キロメートルまで打ち上げ、そして再び北極星2号を打ち上げましたが、これは固体燃料のコールドローンチ方式でトンネルから出て5分で発射準備可能になります。その後続いて、途中で方向を変えられる精密誘導ミサイル、地対艦ミサイルなどを相次いで発射した後、7月にICBM火星14号が2回発射されました。1回目は37分間、2回目は47分間飛行し日本の排他的経済水域(EEZ)に落下しました。これを水平にすると1万キロメートルを超えることになります。弾道ミサイルで1万3000キロメートル飛びますと米国の西海岸そして東海岸に到達します。それからさらに8月、9月にも火星12号などを頻繁に発射しています。

核実験も2度行われました。過去の諸外国において、原爆の実験から水爆になるまでにかかった時間をみてみますと、1940年代にアメリカは核実験を12回行い、6年かけて水爆を完成させました。ソ連は実験4回で4年、イギリスは4年、フランスは2年、中国は2年ということになっています。北朝鮮の場合は2006年に核実験を開始して、最初は5・1キロトン爆薬の威力でしたが、6回目の今は160キロトンと広島型原爆の10倍に達しています。

 

このような北朝鮮の核開発に対して何とか阻止しようと、今国際社会でいろいろな動きが見られます。「なぜ北朝鮮が核とミサイルの開発を行うのか」ということですが、通常戦力では米韓にかなわないということですから、核ミサイルによる瀬戸際外交によって体制を維持しようとしているわけです。金正恩(キム・ジョンウン)が就任して5年経ちましたが、最近の国内の状況をみますと、2013年に叔父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)を粛清、14年に妹の金与正(キム・ヨジョン)が党幹部として登場、15年に対南政策を所掌する金養建(キム・ヤンゴン)党統一戦線部長が事故死、16年には党委員長となり、17年は兄の金正男(キム・ジョンナム)を殺害したのに続き、今も軍の代表者が行方不明になっており非常に不穏な動きもあるといわれており、今は取りあえず国内を重視して、核ミサイル事業を成し遂げて体制を固めたい、そのためにアメリカに対して挑発を繰り返しているということでしょう。

このような北朝鮮の弾道ミサイルに対する日本の防衛態勢をみてみますと、SM-3のイージス艦とPAC-3という二段構えの態勢をとっています。ロフテッドなどで射距離が延びている北朝鮮のミサイルに対応するため、陸上自衛隊は従来型の3倍程度射程を延伸できる「SM3ブロック2A」などを配備する陸上配備型システム「イージス・アショア」による長距離迎撃態勢を目指しています。既に自衛隊は一年前から「ミサイル発射命令」を受けており、いつ何時撃たれてもすぐに迎撃できる態勢を取り続けているわけです。自衛隊の隊員はいわば直立不動の姿勢を保ちながら注意力・対応力を研ぎ澄まし、部隊としては最高レベルの態勢を維持しています。海上自衛隊には今4隻のイージス艦がありますが8隻に増やします。陸上自衛隊は迎撃態勢の一翼を担うべくイージス・アショアを秋田県と山口県の陸上自衛隊演習場2カ所への配備を予定しています。PAC-3については、高知を含め4カ所に高射特科の部隊が警備についています。

 

宇宙の軍事的利用も各国で進んできています。GPS衛星は高度2万キロメートルにあり、民生化されていろいろなところに使われていますが、早期警戒衛星というのは高度3万6千キロメートです。日本には気象衛星、放送衛星、通信衛星はありますが、早期警戒衛星は持っていませんので、アメリカの早期警戒衛星DSP(国防支援計画衛星)などの支援を受け、日米で情報を共有しながら対応しています。

日本のレーダーは非常に性能が良く、目標を捕捉する能力は米軍より優れています。今この分野では近代化を進めており、海上イージス艦のレーダーも新しいタイプになっています。三菱電機を中心にNECなど日本の電気メーカーが研究開発を続けています。たとえばガメラの形をしたガメラレーダーは全国に数カ所あり、航空機・巡航ミサイル・弾道ミサイルなどを捕捉できます。このように全国にレーダー網を張り巡らし、自衛隊員も孤島とか山の上など厳しい環境のところで365日頑張っています。対馬には陸海空自衛隊の警戒部隊が配置され、常時洋上の監視・偵察などを行い情報収集にあたっています。

米軍はTHAAD弾道迎撃ミサイルシステムのXバンドレーダーを日本に2カ所、青森の米軍車力通信所と京都の米軍経ヶ岬通信所で運用しようとしていますが、韓国がTHAADミサイルを配備すると、この地域で効果的なXバンドレーダー網が形成されます。

その他新しい装備として、F-16戦闘機に搭載できる空対地巡航ミサイルJASSMの900キロメートルの長射程化を進めています。敵の船舶、陸上部隊に対して島嶼防衛上有効な兵器です。なぜこういうものが必要かというと、相手も航空機、巡航ミサイルなどを使用し射程を延ばした攻撃力を増してきているのでこれに対応するためです。このような島嶼防衛用のミサイルを国内で開発しています。よく敵基地攻撃能力といわれますが、ただミサイルを持っているだけでは敵のミサイル基地を叩くことはできません。彼我の間には電子網が張り巡らされていますので、これを破壊しないと相手のところまで届くことはできません。我われは党として、AWACS(早期警戒管制機)を中心に各組織が協力して「敵基地を攻撃する態勢」の検討を始めるように政府に対して要望しています。

 

ここで周辺諸国の政治情勢を見てみますと、(以下、機関誌掲載)